第7回 柚明本章・第一章「廻り出す世界」について(甲)
1.まずはごあいさつです
桂「みなさんこんにちは、羽藤桂ですっ」
柚明「皆さんこんにちは、羽藤柚明です」
葛「葛と尾花です、皆さんこんにちはー」
サクヤ「あんたらはいつでも呑気だねぇ」
ノゾミ「羽藤は骨の髄まで太平楽だから」
(配置は画面左から桂、葛、尾花、サクヤ、ノゾミ、柚明の順)
桂「だってここは楽屋裏で、どんな波乱も危険も禍もないって『お約束』だし。今日はゲ
ストさんに、サクヤさんノゾミちゃん、葛ちゃん尾花ちゃんも来てくれて、とてもにぎや
かだから……ってあれれ? 烏月さんは?」
柚明「今回のゲストさんは葛ちゃんと尾花ちゃん、ノゾミちゃん、サクヤさんの3組よ」
サクヤ「ほうほう、そりゃあ良い。あの生意気な鬼切り小娘は、本日はお呼ばれでもない
から、あたしと桂の間には割り込めないと」
ノゾミ「鬼の私としては、鬼切りが傍にいない方が、のびのび出来て都合良いわね……人
目を憚らず、けいと近しく妖しくなれるし」
葛「戦力均衡を考えるなら、鬼切部側に烏月さんは不可欠ですが、桂おねーさんのハート
の奪い合いでは、烏月さんこそ脅威な面も」
桂「本当に来てないの? 一人だけ仲間外れなの? これって確かに作者さんの意図?」
葛「仲間外れな訳でもないよーです。作者の意図である事は、間違いないよーですけど」
作者メモ「わたしは柚明前章4つの話しを解説するゲストに、柚明以外のアカイイトヒロ
イン4人を当てました。柚明本章は話しが更に長いので、解説のボリューム増を考慮して、
ゲストを増員する積りでした。しかし……」
サクヤ「一つの場面で登場人物が多くなりすぎると、作者の力量から、全ての者の立場や
心情や動きを把握して描く事が、キツイって話しは、何度か今迄も触れていたからねぇ」
ノゾミ「登場人物を絞り込んで、濃密な絆や触れ合いを描く作者の方針は、きっと正解よ。
力量の拙さを場面設定で補う作戦は間違いじゃない。私もそれで桂と恋い濃い仲を描かれ
たし……問題は、絞り込みに漏れた場合の残念さかしら。今回は選ばれたから許すけど」
桂「お姉ちゃん以外のヒロイン全員をゲストさんに招くと、登場人物が多くなりすぎるか
ら、烏月さんを外しちゃったってこと…?」
葛「一部正解で、一部誤解があります。ノゾミさんもサクヤさんも承知で、桂おねーさん
を泳がせて愉しんでますね。人が悪いです」
柚明「烏月さんだけが不公平に外された訳ではないの。久遠長文は柚明本章の4つの話し
を解説するゲストに、わたし以外のヒロイン4人を3人ずつ登場させる考えみたいなの」
桂「お姉ちゃん以外のヒロイン4人を、4つの話しに3人ずつ招くってことは……おぉ」
サクヤ「分った様だね。あたし達柚明以外のヒロイン4人は、柚明本章の4つの話しに3
人ずつ3回呼ばれる。持てる権利は3つずつ。どこか1回だけ、登場できない話しがあ
る」
葛「烏月さんは初回が不登場となった訳です。逆に言えば、烏月さんは今後全ての話しに
招かれると、今時点で確定しました……わたし達3人は逆に、最終章迄の間に1回は欠け
なければならないと、今時点で確定した訳で」
ノゾミ「4つの話しに平等に割り振るのなら、1人ずつ1回登場か全員毎回登場か、だと
思っていたけど……1人ずつ不登場の選択もあったのね。2人ずつだと組み合わせが6つ
で、4つの話しで公平にならない。考えたわね」
柚明「そう言う訳で、烏月さんだけ不公平に外された訳ではないの。只、今回は烏月さん
が登場しない回だった……分って桂ちゃん」
桂「うん……烏月さんがいないのは残念だけど、烏月さんだけ仲間外れにされた訳じゃな
いってことなら……次は逢えるんだものね」
葛「そーなりますね。次はここに居る3人の内、誰かが外れる事になってしまいますが」
桂「あ、そうだった。順番だから、みんなが一堂に会する事はないんだもんね。この辺り
は作者さん、ちょっと意地悪のような気も」
ノゾミ「柚明本章でも後日譚でも、けいとひろいん全員が揃う場面は中々ないでしょう?
青珠に宿った私は、四六時中けいと一緒しているけど。学校に行っている間は、けいは
ゆめいとも離れ離れで。観月の娘も鬼切り役も鬼切りの頭も、それぞれ使命や生活がある。
絆を繋げた仲でも、常には一緒出来ないわ。皆の都合がぴたりと一致する事は逆に少な
い。逆にその場の人数が少ない方が、余計な邪魔を省けてその少数と恋い濃い時を過ごせ
る」
柚明「例えその場にいなくても、心を確かに繋げれば、心に抱いて想いを紡げるわ。そう
言う姿や場面を描くのも、久遠長文の好みだから。常に一緒は最善だけど、愛は一緒にい
る時にしか紡げない訳ではない。サクヤさんやノゾミちゃん、葛ちゃんも分っているわ」
サクヤ「誰かが欠けている状況なら何パターンも作れるから、それぞれに味付けが異なっ
て来る。作品を重ねる内に生じ易いワンパターン化を回避するにも、良案って処かねえ」
葛「そーゆー訳で、烏月さんには次回登場した時に、鬼達へ強面に応対して貰う事として。
今宵は若杉葛が桂おねーさんと、心ゆく迄肌身を添わせ、深く強い絆を結びますですよ」
サクヤ「ちょいとお待ち! 折角の『鬼切り役の居ぬ間の洗濯』で、桂と絆を深める格好
のチャンスを、見過ごしてなるものかい……って、何だいこの座席配置はぁ! 端っこの
桂の隣が極悪お子様で、あたしの両隣は狐と小鬼で。桂どころか柚明の隣でもないって」
ノゾミ「霊体の私はいつでも浮いて桂の肌身に寄り添えるけど……鬼切りの頭の位置は邪
魔よね。ゆめいに不埒な動きを制されそうなこの位置も、反対隣が観月の娘って配置も」
葛「不埒って自身で言っちゃってますよ?」
ノゾミ「良いのよ。どうせけいも、ここの全員の心中はご承知な設定なのだもの。それよ
りこの先3つの話しの中で、確実に1回はげすとから外れざるを得ないのなら、今回しっ
かりけいと濃い恋い絆を交わしておかないと……観月の娘、あなたその前に隣で邪魔よ」
サクヤ「それはあたしも同じだよ。烏月が居なくても、それだけであんたの思い通りにな
る程、世間は簡単じゃないって知りな。ってつづらぁ! あたしがノゾミを相手している
間に、桂との2人を愉しんでいるんじゃない。
柚明は柚明でそれを笑顔で眺めて……桂を葛やノゾミに盗られても良いのかい。桂は誰
にも靡かないって余裕なのか、長閑にお気楽なのか、それとも嵐の前の静けさなのか…」
柚明「桂ちゃんが誰と絆を結んでも、どこの誰を一番にたいせつに想っても。わたしの一
番愛しいひとが桂ちゃんである事に、変りはありませんから。葛ちゃんと想いを交わし合
う桂ちゃんの姿も、愛らしくて心癒されます。
桂ちゃんが可愛いから、つい取り合いになってしまう気持は分るけど……程々にして下
さいね。皆さん全員がわたしと桂ちゃんの大切な人なので。何よりわたしの一番たいせつ
な桂ちゃんに、心配や不安を与えない様に」
ノゾミ「ゆめい……怒っては、居ないのよね。物腰は穏やかで気配は静かで、声音も私達
を案じてくれている様にも聞えるのに……何か背筋に悪寒が走るのだけど……観月の
娘?」
サクヤ「錯覚だよ……柚明は優しく淑やかで揉め事を嫌う。拾年前以前の羽様の屋敷でも、
朝に幼い白花や桂に寝間着の袖を捕まれると、自力で引き離す事が出来ない位で……背筋
を走る悪寒はきっと錯覚だよ。きっと錯覚だ」
桂「……ノゾミちゃん? サクヤさん…?」
ノゾミ「なら、良いのだけど……どちらにしても、私は解説の本筋に、戻らせて頂くわ」
サクヤ「あたしもそうするよ。でも、時に甘さ優しさは背筋に悪寒を走らせるのかねぇ」
葛「わたしも本筋に戻った方が良い気がしてきました……桂おねーさんに常に肌身添わせ
られる、最大のアドバンテージは保ちつつ暫く行使せず、解説を進めます」尾花「……」
桂「みんな仲良く落ち着けた処で、柚明本章第一章『廻り出す世界』の解説に戻ります」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
2.お話しに入るその前に
桂「わたしとお姉ちゃんの『柚明の章講座』も7回目になりました。前回掲載からおよそ
11ヶ月経過しての再開です。講座の掲載間隔としては、短くも長くもない感じだけど…」
柚明「そうね。柚明前章番外編第15話を描き終え、その終りが見通せてきたと言う事と。
後日譚も大きな山場となる第4.5話執筆が、間近に迫った事もあって、その間に一つお
話しを挟めたいとの意向が、あったみたいね…。
みなさんと向き合う機会が再び巡ってきて、桂ちゃんもわたし達も、とても嬉しいで
す」
葛「大風呂敷と感じてましたけど、地道に書き綴っていましたね。柚明前章4章、柚明柚
明間章1章、柚明本章4章は既に書き終えて。
柚明前章番外編が16話の内15話終了、挿話が24話の内23話終了。後日譚が0話から6話
迄終了し、『○.5話』という端数の話しも7話の内4話を書き終えてます。他に特別編。
その息の長さには、敬意を表しますですよ」
サクヤ「長い話しを書き終えた後で挟めていた番外編挿話も、残す枠はあと一つ。もう少
し描きたい中身も出てきた様だけど、これ以上挿話を増やすのもどうかと悩んでいるとか。
描きたければ意欲の続く限り描いて、嫌になったら中途半端で止めて良いと、あたしは思
うけど。あいつはそう言う処にお堅いから」
ノゾミ「終りが見通せて淋しさも感じているって……せっかちね。まだ取り掛ってない話
しもあるのに。早く完結させてみなさいな」
葛「息抜きの積りで始めた割には、この講座もかなり力を入れて描いているらしく……度
し難いですね。何の為に描き始めたのやら」
柚明「それも久遠長文がアカイイトを、桂ちゃんを深く好いてくれていてこそだから…」
桂「この後は、後日譚第4.5話『魔女裁判(仮タイトル)』を執筆する予定だそうです。
拾年前以前に登場した人達が多く再登場するので、柚明前章番外編を終えておかないと、
設定や描写にブレが生じる怖れがあり、手を付けられなかったって。具体的には鬼切部相
馬党の方々や、若杉の羽藤監視のみなさん方。
第1.5話『人の世の毀誉褒貶』執筆時も、柚明前章番外編第12話『幼子の護り』を
描かなければ、手を付けられないって……議員さんとか秘書さんとか、雑誌記者さんと
か」
ノゾミ「中々に味のある再登場だったわね……考えてみれば、柚明前章番外編の第2話で、
癒しの『力』を持つ鬼・不二夏美の話題を出しておいて、本人の登場は第12話とか。第
3話で神原美咋の名だけ出して、登場は11話とか。布石を忘れた様な頃に登場させ…」
葛「順に作品を読んだ人なら、あっと気付いて手を打つ、『あの人!』的な展開になって
いますね。しっかり読み進めてくれた長期の読者への、ちょっとしたサービスでしょうか。
作者はこういう構成を好む様で。ここ迄進んで漸くの感はありますけど。今後も後日譚に、
柚明前章の登場人物や事案が影響しそうです。この辺りは粘着質というか計画的という
か」
サクヤ「手が込みすぎているんだよ。現実の世の動きとシンクロさせて、拾年前以前と今
を繋げ……そこ迄やらなくて良いのに。まぁ財閥総帥の葛を描くには、政治経済の描写も
欲しい処だけど。避けようとすれば出来ない訳でもない。紫式部でも見習えば良いのさ」
柚明「一国の首脳を主人公に生涯を描いているのに、恋愛の話題ばかりで経済も政治も軍
事も殆ど絡まないですものね、源氏物語は」
ノゾミ「私と桂とのらぶらぶに特化して描いてくれるのなら私は許すけど、作者はそうい
う『何も起きない展開』は苦手らしいから」
桂「何か問題や支障や困難が生じた方が、その解決に苦労したり工夫したり考えたりする
方が、お話しとしては組み立てやすいしね」
サクヤ「そんな事言っていると、とんでもない禍が振り掛って来るよ。柚明本章を見ても、
柚明にも乗り越え難い程の艱難辛苦が随所に満載だったし。それは完了形ではなく、後日
譚では未だに現在進行形なんだからねえ…」
桂「それはイヤです。お姉ちゃんの強さや美しさ優しさ甘さはもっともっと読みたいけど。
それを描き出すのに作者さんは厳しい状況を用意しすぎ……もう少し手加減された困難を、
厳しすぎない生温い試練を、お願いします」
ノゾミ「そう言う都合良い展開では、盛り上がりも感動もないから、今迄も作者は厳しい
話しの導きを、選んでいるのだけど……今ならば、けいの気持も分らないでもないわね」
葛「次の後日譚第4.5話も、かなりハードな展開を迎えます。柚明前章番外編で拾年前
以前に登場していた人物が何人か、『まさかあの人!』と言う感じで再登場します。わた
しと桂おねーさん柚明おねーさんの濃密な関りを描く話しは、今年後半に公開予定です」
サクヤ「柚明本章第一章は、葛の出番が殆どないからね。後日譚で存在感をアピールした
い気持は分るけど、そろそろ本筋に戻るよ」
柚明「どの話しも作り込みや描写に力を入れすぎるから、時間が掛って分量が増えるのね。
そこは欠点でもあり長所でもあるのだけど」
桂「柚明前章も『長すぎて読みにくい』って感想をもらった位文章量が多かったけど……
その長さで作者さんが漸く描けた話しの深みを、評価してくれる読者さんも居たから……
柚明本章は更に長いね。流石の作者さんもここまで長くなるとは、想定外だった様です」
葛「作者が最後迄描ききれるか否か危ぶんでいたのも頷けます。長編志向とはいえ完結し
た作品が少ない素人ですし。番外編を全て後回しにして、本編完結を急いだのは正解です。
柚明前章番外編は、未だに終っていませんし。
柚明前章では1話の文章量が4百字詰め原稿用紙2百枚でしたが、柚明本章ではその倍、
四百字詰め原稿用紙4百枚です。この辺りから作者は既に読み違えていたよーですから」
サクヤ「柚明前章を描いた時も、当初想定で文章量が四百字詰め原稿百五十枚だったのに。
想定したプロットで描き始めてみると、文章量が伸びて行き。第二章以降も類似の内容量
を予定していたから、無理に縮める事は諦め、2百枚にした様だけど。柚明本章も同じだ
ね。
四百字詰め原稿2百枚としていた文章量が、想定したプロットで描き始めてみると、文
章量が伸びて行き。第二章以降も類似の内容量を予定していたから、無理に縮める事は諦
め、4百枚にしたと。収めきれなかった訳だね」
ノゾミ「柚明前章で行けば4分の3、柚明本章で行けば半分で、終らせられると思ってい
たのね……見通しが、けい並みに甘々だわ」
柚明「予想を超えて伸びて行く時に、どこで切ろうか、伸ばすべきか。どこ迄伸ばすべき
か、きちんと終らせられるのか。非常に不安を感じたって、作者メモにあるわね。特に柚
明本章の第4章は、もう最後は伸びる侭に任せる他に、術もないという感じになったと」
桂「柚明前章及び柚明本章が4章構成なのは、アカイイト本編の4日構成に倣ったそうで
す。柚明本章ではわたしの経観塚滞在は、ノゾミちゃんルートや葛ちゃんルート等を混ぜ
合わせた為に、6日になっているんだけどね…」
葛「6日に増やされなければ、わたしルート等は回収されず割愛されていたでしょーから、
そこは好都合というか生命拾いというか…」
サクヤ「そうだねぇ。『桂がさかき旅館に泊るルート』上にいる烏月やノゾミはともかく、
あんたは存在その物が、消されていた可能性が高いよ。分量制限とか掛けられていたら」
ノゾミ「随分上から目線ね。『桂が当日羽様の屋敷に行く』同じルート上に居る自身には、
その心配を全く感じてないみたいだけど?」
葛「このお話しは柚明の章ですから。柚明おねーさんと深い仲で、柚明前章から出ていた
サクヤさんは、柚明本章で扱いが多少伸び縮みしても、消えはしません。むしろわたしの
次に危ないのは、ノゾミさんだと思いますよ。
ノゾミさんも柚明前章から登場した貴重な敵方なので、わたしと違って存在自体が消さ
れる事はないと思いますけど。深く描かれず、只の敵として片付けられる恐れが……桂お
ねーさんのたいせつな人になれなければ、千年前から今に至る迄、駐。の敵で仇ですし
ー」
ノゾミ「ミカゲと共々消される結末は、アカイイト本編にもあり得たし、笑えないわね」
桂「葛ちゃんもノゾミちゃんもたいせつな人だよ。作者さんだって消したりしないよ!」
柚明「葛ちゃんもノゾミちゃんも、桂ちゃんと共に笑い合うこの今が、全てだと想うわ」
サクヤ「創作の幅は無限だけど、作者が柚明本章で辿ったのはアカイイト本編の範囲にあ
る分岐だった。あり得ない選択は採ってない。
アカイイト本編のユメイルートを基盤にしつつ、各ヒロインのトゥルーエンドに至るエ
ピソードを、欲張りにかなり取り込んだ柚明本章の展開は、良くも悪くも無難で妥当だよ。
後もう少しあたしルートの見せ場を取り込んで欲しいと想うけど、それは難しいしねぇ」
桂「サクヤさんが崖から落ちるわたしを引っ張り上げてくれる場面は、柚明お姉ちゃんに
助けてもらう場面と被っちゃうし。サクヤさんルート終盤では、お姉ちゃんがご神木共々
完全消滅しちゃう。葛ちゃんルートを辿ると、尾花ちゃんがノゾミちゃん達に殺められる
し、それじゃノゾミちゃんとも仲良くなれない…。
経観塚到着当日に羽様のお屋敷へ行く『サクヤさん葛ちゃんルート』は、傷み哀しみの
多い難関ルートだね。こうして全て見通せる様になった今だから、言えるお話しだけど」
柚明「久遠長文は、わたしルートがある事と、導入部ルートと呼ばれる烏月さんルートが
ある事、ノゾミちゃんも含め3人ヒロインがいる『多数派ルート』である事の3点で、桂
ちゃんがさかき旅館に泊るルートを選んだ様ね。
桂ちゃんや桂ちゃんの大切な人が、可能な限り傷つかない展開は、わたしの願いだから。
ノゾミちゃんと絆を結べ、尾花ちゃんが生き残れた柚明本章の展開は、良かったと想うわ。
サクヤさんが桂ちゃんに観月の民だと告白できれば、その真の想いを告白できれば最高だ
ったけど。それは後日譚で補われているし」
サクヤ「アカイイト本編が複数ヒロインを攻略できるアドベンチャーゲームで良かったよ。
そうでなかったら、単独ヒロインだったなら。構成から見てヒロインは烏月か柚明で、あ
たし達は脇役扱いで終っていただろうからねぇ。柚明の章もそれに準じていた可能性が高
い」
葛「アカイイト本編の『複数ヒロインとのトゥルーエンドがある』ゲーム構成は、わたし
を生き残らせてくれましたが。その趣旨を満度に汲み取って、全ヒロインを桂おねーさん
や柚明おねーさんに繋げた作者も、わたしを生き残らせてくれた訳で。やや自虐的ですが、
柚明の章でも最大の受益者は若杉葛かと…」
ノゾミ「解説に戻るわよ……けいのはぁとの奪い合いならともかく、柚明の章の上で存在
を消されるの消されないのの話しは、生前消された存在だった私には、愉快じゃないわ」
サクヤ「確かに少し、悪ノリしすぎたかね」
葛「そーでしたね、ノゾミさんすみません」
ノゾミ「わ、分ればいいのよ別に。あなた達に悪意がない事位は、今の私なら分るのだか
ら……反省したらさっさと本筋に戻るわよ」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
3.アカイイト本編と付かず離れず
サクヤ「じゃあ少し話題を変えるとするかね、柚明。頼むよ」柚明「はい、サクヤさん」
柚明「久遠長文は柚明前章を書き始める前に、柚明本章の末尾迄概ね構想を終えていたけ
ど、その中でも柚明本章とアカイイト本編の関りについては、かなり考えていた様ね。こ
の作者メモは過去の解説でも触れた内容だけど」
作者メモ「柚明本章は、アカイイト本編冒頭、桂がさかき旅館に泊る『ユメイ・烏月・ノ
ゾミルート』を基本に採用し。それに桂が到着日に羽様の屋敷へ行く『葛・サクヤルー
ト』のエピソードを、可能な限り取り込む構成にしました。柚明が主人公である柚明の章
なら妥当な選択ですが、その為に、葛やサクヤの作中での活躍や印象がやや弱くなってい
ます。
葛については作中で出来る限り丹念に描いてフォローする一方、サクヤについては柚明
本章ではむしろ割愛し、その背景事情・ご神木に纏わる過去は、柚明前章第三章と第四章
で描いています。アカイイト本編でもサクヤルート以外で、桂はサクヤが観月の民である
事も、竹林の姫との千年の絆も知る事はない。
柚明本章もその基本線で進め。全てをご承知の読者みなさんには、柚明前章で柚明がサ
クヤを人ではないと分って行く過程を通じて、サクヤの千年の経緯を最低限明かしてお
く」
桂「作者さんは更に『アカイイト本編とは付かず離れず』って書いているよ。『百姓は生
かさず殺さず』って台詞は、時代劇で何度か聞いたけど、あれは悪者の台詞だった様な」
葛「アカイイト本編と同じ展開では、二次創作の意味が薄くなります。アカイイト本編は
桂おねーさん視点なので、柚明おねーさん視点で描けば相違はありますけど。幾ら違う視
点で描いても、アカイイト本編のどれかのルートと同じ展開では、結末が分って面白みが
薄いです。柚明おねーさんルートが基本でも、最後迄見通せずドキドキさせて欲しいで
す」
柚明「桂ちゃんが何度も危うい分岐を通るから、わたしもドキドキし通しでした。久遠長
文はアカイイト本編のバッドエンドを幾つか繋げて使ってくるので、桂ちゃんが本当に危
うくて、完結迄生きた心地がしなかったわ」
桂「わたしも実際柚明本章を進みながら、ハラハラしたよ。お姉ちゃんやノゾミちゃんや、
葛ちゃんや尾花ちゃんが、危うく見えて…」
サクヤ「あんた達は少し自身を大事におし」
葛「そこは本当に同意します。2人共無茶と甘さが過ぎます。その甘さ優しさもアカイイ
ト本編の設定を、逸脱している訳ではないのですけど。わたしとしては、作者はもう少し
自由に話しを進めてもいい気もしましたが」
ノゾミ「でも、アカイイト本編から逸脱しすぎては、そもそも何を描くのか分らなくなる。
特にアカイイト本編を辿る柚明本章ではね…。
本筋を大きく離れたSSも否定しないけど。柚明の章の作者は本筋を離れすぎるなら、
描く意味が薄いと考えている。更にアカイイト本編のえぴそーどを、どれも捨て難いと感
じ。大きく本筋を外れては、他のえぴそーどを経由できない怖れが高いと、懸念したみた
い」
柚明「アカイイト本編のわたしルートを辿るだけでは、ノゾミちゃんが消滅してしまうし、
葛ちゃんや烏月さんも桂ちゃんと心通わせられない。そこが不足で描き始めた柚明の章だ
から、みんなの大事な場面を辿れる位に外れつつ。見た事もない展開になって、逆にみん
なの大事な場面を辿れなくては困るから…」
サクヤ「そこで柚明本章は、ユメイルートを基本としつつ、桂と異なる柚明視点で、柚明
の知識や感性から見た展開を描きつつも、ユメイルートからは離れすぎず近付きすぎず」
桂「正に生かさず殺さずだね。考えてみれば、柚明の章ではお姉ちゃんに、アカイイト本
編にも明記のなかった、酷い目を強いているし。作者さんは、時代劇に出てくる悪代官や
次席家老並に、あくどい面を持っているのかも」
葛「それ、作者の創作に関する基本思想の一つらしーですよ。『作者は頭の中で天使と悪
魔を同時に飼い慣らさなければならない』と。確かに味方や順風満帆な状況ばかり描く訳
にも行かないですから。ピンチや逆境や悲嘆もストーリーの展開上、描かなければならな
い事もありますから。誤りではないですけど」
サクヤ+ノゾミ+桂「よりによってこの話しで柚明(お姉ちゃん)をそう描かなくても」
柚明「有り難う。葛ちゃんも解説の為に言いにくい箇所に触れてくれて。わたしは、桂ち
ゃんとそのたいせつな人の絆が守られ、仲良く笑い合える今の状況を導けた、柚明の章の
展開と結末には、充分納得しているけど…」
サクヤ「その心境を描くには、柚明主人公視点でなければ不可能だろうね。あたしでも桂
でも、とても納得なんてできゃしないから」
ノゾミ「ゆめいに抱く愛の深さが、ゆめいの在り方を悟るには、却って妨げになる訳ね…
…作者位ゆめいを愛しつつ、冷静に距離を置いた描写が為せる者でなければ、届かない」
葛「桂おねーさんの内心を余さず描けたのは、アカイイト本編が桂おねーさん視点に徹し
たからです。柚明おねーさんの内心を余さず描くには、柚明おねーさん視点を貫く他にな
い。柚明前章ではそれを貫き通しましたけど…」
サクヤ「だからこそ、柚明の関知や感応が届く範囲にいる桂の視点、柚明が視て感じる事
の叶う桂の視点も含めた、広義の柚明視点」
桂「これも以前の講座で触れた中身だけど」
作者メモ「ユメイの一人称を軸にしながら、彼女の関知の力という設定を元に、桂の一人
称まで交え、なおかつ混乱させないというのは恐れ入りました」
柚明「これは柚明本章に寄せて頂けた感想の一つだけど。ここ迄褒めて貰えるとは思って
なかったから……嬉しかったわ。苦心しても、桂ちゃんの視点を交えたのは成功だったわ
ね。
作者は柚明本章も、柚明視点のみで貫こうかと、少し悩んだみたいだけど、最終的にわ
たしの関知や感応が及ぶ範囲での、桂ちゃんの視点も交えた文体にしたの。それはわたし
が知れる範囲の事だからと。一種の折衷案ね。
夜なら、桂ちゃんが経観塚銀座通にいても、わたしの関知や感応は届く(現身で行け
る)から。夢見以外でも、起きている桂ちゃんの感性で、触れて見て聞いて感じる事が出
来る。
でも日中は、羽様に来なければ桂ちゃんの心に寄り添えないから。さかき旅館や銀座通
を歩む昼の桂ちゃんの心の内は、アカイイト本編で描かれても、柚明本章では描けない」
サクヤ「実の処、崖から落ちた桂の大量の血を受けた後の『濃い現身の柚明』なら、日中
でも銀座通の桂に関知や感応が届くのだけど。以降柚明本章の終了迄、桂は羽様を離れな
いからね。そこは裏設定の侭で終っているよ」
柚明「読者みなさんがアカイイト本編で馴染んでくれた、桂ちゃんの視点を欠く訳には行
かないでしょうとの、久遠長文の判断です…。
桂ちゃんが主人公のアカイイトを名に冠する以上。桂ちゃんを中心に流れる物語を読ん
で感じて貰えなければと。ゲーム中で見て読んだ、あのシーンがあの状況が、脳裏に蘇る。
柚明の章の独自設定と、わたし視点で進む裏展開を挟めつつ。それで柚明の章は、アカイ
イトに支えられ強力な既視感・現実感を得る。
柚明の章がアカイイト本編があってこそのSSである様に、わたしは桂ちゃん白花ちゃ
んがあってこその羽藤柚明なの。作者も原作の雰囲気や印象を、極力残したかったって」
葛「折衷案は多くの場合、どっちつかず・虻蜂取らずになりかねませんが……時には正と
反を止揚して、合の高みに持ち上げる……虻蜂を両方取ってしまえる事も、ある様です」
桂「柚明お姉ちゃんとノゾミちゃん、葛ちゃん烏月さんサクヤさん、みんなと仲良くなれ
た柚明の章は、究極の二兎掴み取りだね…」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
4.柚明本章の中での位置づけ・換骨奪胎
ノゾミ「解説を続けるわよ。柚明本章の全体的な話しは取りあえず良いとして、次は…」
柚明「柚明本章の中における第一章『廻り出す世界』の位置づけについて。まずはタイト
ルだけど……タイトル付けに悩む事久遠長文にしては、比較的簡単に思いついた様です」
桂「アカイイト本編オープニングテーマの表題『廻る世界で』から戴いたんだね。わたし
やみんなを巡る運命が、お話しが動き出すって言う、簡潔で良いタイトルだと思います」
葛「第一章の範囲は、サクヤさんがご神木の柚明おねーさんに、桂おねーさんのおかーさ
んの訃報を告げに訪れた処から始り。桂おねーさんが経観塚に来て2日目の深夜迄です」
サクヤ「大雑把に言えば、柚明が経観塚を再び訪れた桂に、守りの手を届かせる迄、だよ。
でも、ノゾミやミカゲは桂の濃い贄の血を呑んで強大化するし、鬼の姉妹を退けた烏月
は桂との絆を断ってしまうし、柚明は無理の反動で消失の危機に瀕して。状況は四方八方
破れかぶれ、始ったばかりで玉砕覚悟。圧倒的な劣勢から絶望的な劣勢への転落が続く」
葛「桂おねーさんがさかき旅館で同宿した烏月さんと知り合い。その夜に夢の中で柚明お
ねーさんと、翌日羽様のご神木の前で白花さんと会い。経観塚銀座通に戻ってサクヤさん
と合流し、2日目夜ミカゲさん達に襲われて。
烏月さんルートの千客万来です。柚明おねーさんの守りは力及ばず、危うい処で烏月さ
んが鬼の姉妹を退けるけど、柚明おねーさんにも刃を向け。サクヤさんの妨げで烏月さん
は立ち去るけど、柚明おねーさんを庇った桂おねーさんと、烏月さんの絆が一旦絶たれて。
この辺は柚明おねーさんルートと言うより、むしろ烏月さんルートを辿る感じですね
ぇ」
桂「作者さんから『換骨奪胎』ってメモが来ているよ。これを見せれば、みんなは大体分
る筈ですって……柚明お姉ちゃん、分る?」
ノゾミ「柚明本章で敵味方の立ち位置を変えられた私には、よーく分るわ。柚明本章の第
一章と第二章が、ゆめいるーとより鬼切り役るーとを辿る事も含め、作者のあざとさが」
桂「お姉ちゃん、サクヤさん、葛ちゃん?」
サクヤ「分ってないのは桂ばかり、かねぇ…。
同じくさかき旅館に桂が泊るルートだけど、柚明ルートと烏月ルート、ノゾミルートは
それぞれ相違があるだろう? ノゾミについてはどこかで外科手術的に繋ぐ事にするとし
て。烏月ルートと柚明ルートは、アカイイト本編の3日目昼迄、似た様な動きだから。3
日目の昼に羽様へ行って崖落ちすれば柚明ルート、3日目夜をさかき旅館で迎えれば烏月
ルート。
柚明本章第一章と第二章で描かれる中身を、敢て柚明ルートより烏月ルートから多く取
り入れているのは、作者の腹黒な作為なのさ」
柚明「導入部ルートと言われる烏月さんルートの方が、読者みなさんに印象深いから、多
く取り入れた事情もある様です。特に『千客万来』は、主要登場人物の多くが顕れるので、
外したくない名場面ですし。只、他にも…」
桂「他にも?」葛「換骨奪胎の為ですよ…」
ノゾミ「アカイイト本編のゆめいるーとでは、2日目の夜に桂の血を戴きに行った私とミ
カゲは、ゆめいの妨げを受けて大人しく退いている。本格的な戦いには力不足という理由
で。
でも鬼切り役るーとでは2日目の夜、同じ状況で私とミカゲは妨げに顕れたゆめいと戦
い、圧倒して、後一歩で打ち倒せる処迄追い詰め、鬼切り役の乱入を受けて退いているわ。
この辺り、私達の力量比の整合性がしっかり取れてない気もするけど、そこは置いといて。
鬼切り役るーとでは、ゆめいはけいを助けるのに力不足で、敗れ、鬼切り役にけい共々
助けられている。鬼切り役の引き立てになっている。そんな弱いゆめいを、敢て柚明の章
に使う……輝くのは鬼切り役だわ。鬼切り役るーとならあり得る展開だけど、なぜ柚明の
章でその展開を採用したか、と言う辺りよ」
桂「烏月さんの強さ優しさ美しさを描きたかったってことなんじゃないの? 柚明本章は
烏月さんも含むみんなと絆を繋げるルートで、烏月さんの活躍の場面もあって良いと思う
し。前半でお姉ちゃんと烏月さんの接点を作っておかないと、葛ちゃんやサクヤさんと違
って、烏月さんと柚明お姉ちゃんとは初対面だし」
柚明「助けて又は助けられて貸し借りがある方が、次に逢った時に関係を絡め易いですし。
終盤白花ちゃんに宿る主の分霊を還す役目は、わたしで決定だったので。烏月さんの活躍
を前半に持って来たと、聞いていましたけど」
葛「そこですよ換骨奪胎は。宿敵やラスボスを倒す一番の戦功は、柚明の章では柚明おね
ーさんの物ですが。その前段に烏月さんの活躍をかなりの部分持ってきて使い、中途でそ
れを踏み台にして、柚明おねーさんの輝きに差し替え奪っているんです。それも、柚明お
ねーさんが烏月さんを追い落す描写もなく」
桂「烏月さんルートで、烏月さんがする筈の主の分霊を倒す役を、お姉ちゃんがやったこ
とが換骨奪胎なの? でも、柚明お姉ちゃんルートでは、お姉ちゃんがそれをやっている
し。前半に烏月さんが活躍したからと言って、終盤にお姉ちゃんが、活躍を奪ったって言
うのは……確かに終盤は最大の見せ場だけど」
サクヤ「ここはむしろ敵方から見た方が分り易いかね。敵にも味方にも、何人か戦う人物
が登場する以上、役割って物があるだろう?
敵で言えば、ラスボスとか勇者の宿敵とか、それ以外の敵とか。味方で言えば、中核に
なる勇者とか、それ以外の勇者の仲間とか…」
桂「うん。それは分るよ。柚明お姉ちゃんルートでは、敵味方が複数登場する展開は少な
かったけど。烏月さんルートでは終盤、味方も敵も最大3人ずつ、3対3の戦いになった
よね。わたし側が、烏月さんと濃い現身を得たお姉ちゃんと、血を呑んでないサクヤさん。
敵方が白花ちゃんの体を乗っ取った主の分霊と、白花ちゃんの血を呑んで濃い現身のノ
ゾミちゃんとミカゲちゃん。烏月さんルートだから勇者は烏月さんで、お姉ちゃんとサク
ヤさんは勇者の仲間って役割で良いよね?」
ノゾミ「陽子のげーむぷれいを見て馴染んでいる為か、呑み込みは悪くないわね。じゃそ
の設定で敵方、悪鬼である私側の役割を述べてみなさい。分霊の主さまと私とミカゲの」
桂「ノゾミちゃんは最初から、ミカゲちゃんを連れて顕れ、烏月さんと何度も戦っていた
よね。終盤は主の分霊がラスボスだから指揮権は握れてないけど、最後迄烏月さんと戦っ
ているから、勇者の宿敵だね。ミカゲちゃんは敵の仲間、言ってみればその他大勢かな」
サクヤ「ノゾミに敗れた柚明が、敵の仲間のミカゲに勝ちきれなかったり、あたしが白花
に敗れたりして、烏月を引き立てていた訳さ。まぁあたしルートでは、烏月もあたしや桂
の為に、維斗を折って引き立ててくれたけど」
葛「戦闘シーンのなかったわたしには、そこに参画できている事が既に羨ましーですけど。
焦点はノゾミさんとミカゲさんの扱いです。
ノゾミさんは烏月さんルートで、勇者である烏月さんの宿敵として活躍します。柚明お
ねーさんを一蹴して強さを示し、桂おねーさんを脅かし。柚明本章でも第一章と第二章は、
主に烏月さんルートを辿るので。烏月さんが勇者を、ノゾミさんが宿敵を担い。柚明おね
ーさんは勇者の仲間、ミカゲさんが敵の仲間です。作者はこれを変えていませんけど、柚
明本章第三章でノゾミさんは味方に、桂おねーさんの大切なひとになってしまいます…」
桂「そうだよね。最後迄敵だったら、ノゾミちゃんはこうしてここに居られないものね」
ノゾミ「作者は最後迄勇者と戦う宿敵の役を、私ではなくミカゲに回したの。分霊の主さ
まは終盤迄現れないし、適当なおりじなるきゃらを混ぜる事は嫌うし、他に鬼はいないも
の。
でもその結果、勇者だった筈の鬼切り役は、宿敵を失って勇者の地位も失った。勇者の
最大の存在意義は、敵がいる事なの。逆に敵の仲間でしかないミカゲの相手だったゆめい
は、ミカゲを相手する描写を変えられてないから、宿敵の地位を得たミカゲの敵手として
勇者の地位を得た。ここが換骨奪胎よ。鬼切り役るーとの描写をその侭に変えない侭に、
前提条件を差し替える事で、中途で鬼切り役を勇者から降ろし、ミカゲを宿敵に引き上げ、
結果ゆめいは勇者の地位を自動的に手に入れた」
桂「わ……そのとおりです。烏月さんが敗れて交替するとか、お姉ちゃんが奪い取るとか、
そういう作為なしに自動的に、お姉ちゃんが勇者の位置にいる。これは、凄いです…!」
サクヤ「換骨奪胎って意味が分っただろ。柚明は元々『自分が、自分が』って前に出る娘
じゃないから。作者が狡猾な迄に構成を整えないと、望んで主役を取りに来ないしねぇ」
葛「その無欲さ・報われる事を欲さない性分が、久遠長文を惹き付けたのでしょーねー」
ノゾミ「それが安楽や幸いになるとは限らないのよ。主役の座や勇者の役が、安楽や幸い
に直結する訳ではないという事は、今迄の柚明前章や柚明間章を読めば、分るでしょう」
桂「確かに、そうです。今のこの微笑みを導く課程で、柚明お姉ちゃんが負った痛み哀し
みは、どれ程深甚で長大なものか。今から柚明前章を読み返すのも、怖くなる位です…」
柚明「わたしを深く想ってくれて、有り難う桂ちゃん……わたしは、桂ちゃんと白花ちゃ
んが守られて、サクヤさん達たいせつな人や、桂ちゃん白花ちゃんのたいせつな人が守ら
れれば、己の事については大抵了承できるから。
この後何度同じ状況が巡っても、わたしは一番たいせつな人の生命と想いを守る選択に、
悔いも躊躇もない。尽くせる事、役立てる事、守り助け支える事がわたしの願いで望み…
…為せた事自体が喜びで、わたしの報酬だから。
報われた事は嬉しいけど、それは自身の喜びより、桂ちゃんやサクヤさんや桂ちゃんの
大切な人に、喜んで貰える結末を導けた事で。己の喜びはわたしには望外の幸せで余録
…」
サクヤ「それを心底笑顔で受け容れられるのは、本当に柚明にしか出来得ない奇跡だよ」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
5.お話しの冒頭はサクヤ来訪
葛「そろそろ第一章に分け入って解説を始めましょーか……冒頭は、サクヤさんがご神木
の柚明おねーさんを訪ねて、桂おねーさんのおかーさんの訃報を伝える情景からですね」
柚明「久遠長文は冒頭描写について、アカイイト本編の一連の事柄の直接の因を、叔母さ
んの逝去にあると考え。それをわたしが知る処が開始だと。叔母さんが生命落さなければ、
白花ちゃんも桂ちゃんも羽様に来る事はなく、ノゾミちゃん達も復活は出来なかったか
ら」
桂「白花お兄ちゃんはお母さんの死を知って、自身1人で全て終らせる他にないと覚悟し
て、経観塚を訪れたって。これは作者さんの裏設定だけど、烏月さんのお兄さんの明良さ
んが切られて、一年近く経っての夏の経観塚だし。
『それ迄経観塚に来なかったのに、この時期に来た理由として、その他にないでしょう』
ってそうだよね。烏月さんに追いつかれたのも、人混みや建物の少ない田舎に行った為で。
それ迄一年逃げ切れていた。逃げるより為すべき事に向き合う心境の変化があった。その
原因を探すなら、この時期のお母さんの…」
柚明「そうね。叔母さんの最期を桂ちゃんは間近で看取ったけど、近しい人は虫の報せで
察せる事もある。白花ちゃんは濃い贄の血を宿す近親で、しかも千羽で多少ながら『力』
を修行している。悟れても不思議ではないわ。
主を倒す為に叔母さんと力を合わせ、或いは鬼切部との関係を何とか繋いで貰う等の希
望を失い。単身ご神木の主に挑む他に、術はないと思い詰めてしまったのね。わたしが力
不足で、鬼を取ってあげられなかったから」
サクヤ「アカイイト本編の冒頭が、既に真弓の葬儀の後(葬儀を終えた後で桂が経観塚に
行く列車の車中)だったから。作者は柚明本章の冒頭も、ある程度それに合わせた様だね。
真弓は桂がいる町の家を長く外せない。桂の家から羽様へ来るには、交通事情が良くな
いから泊りがけになる。真弓は裏で若杉や千羽から鬼切りを下請負いして、時折泊りで鬼
を討ちに出向いていてね。濃い贄の血を持ち、心に傷を抱えている桂に、不安を与えると
危ういから。朝起きる桂の前にいなければならないと、それ以外の外泊は一層し難くなっ
て。
夜に家を外す事が、好ましくないと分っていても……家計の支えと、鬼を討つ事が濃い
贄の血を持つ桂の安全を守るという考えから、鬼切りを止める訳には行かなかった様だ
ね」
桂「お母さん。わたしの為に……わたしを大事に想ってくれて、全てを伏せて語らずに」
(桂の傍に歩み寄った柚明と葛が桂に添い)
柚明「桂ちゃん……」葛「……サクヤさん」
サクヤ「あたしが言いたかったのは、拾年の間に柚明を訪ねる者は、ほぼあたしだけった
って裏設定だよ。柚明間章では真弓もご神木を訪れていたけど、あれは一度限りの例外で。
真弓も柚明を想えばこそ、柚明との約束・桂の幸せを守る事に専心して。その為に夜に
桂を置いて家を外す事は、極力控えていてね。あたしが柚明の見守りを頼まれた様な感じ
さ。羽藤の裔も住まなくなって、祀りも絶えたご神木だから。誰かが外から見守り支えな
いと。
それに真弓の訃報を、真弓が告げに来る事は出来ないし。そう言う訳で、真弓の葬儀を
終えて、桂が1日2日、目を離しても大丈夫そうになるのを待って、羽様を訪れたのさ」
ノゾミ「アカイイト本編であなたは、けいが羽様を訪れた事を、後から知って追って羽様
を訪れた筈だけど……と言う事は柚明本章では、あなたは先に羽様の槐を訪れ。ゆめいに
けいの母の訃報を告げてから一度羽様を離れ、けいが羽様へ行った事を知って、再び羽様
へ取って返したと言う事に、なるのかしら?」
サクヤ「そう言う事になるね。特に柚明本章では触れる必要もないから描かれてないけど。
アカイイト・サクヤの章でも描くなら、中国大返し並の即時反転が、描かれるのかねぇ」
桂「サクヤさん、大忙しだったんだ。わたしを心配してくれて……全然知らなかったよ」
葛「柚明本章もアカイイト本編に倣って主人公視点を透徹し、他の人物や誰でもない神の
視点は排除していますので。柚明おねーさんが動かないと、情景が動かない縛りがあり」
ノゾミ「冒頭はゆめいも槐を出られないから、作者も誰かが槐を訪ねる形でしか話しを紡
げない。動きのない序盤の展開は、読者を退屈させかねない。作者の力量が問われる処
ね」
柚明「読者みなさんもご存じと想いますけど。封じの要は主をご神木に封じ、長い年月を
掛けてその妄執を虚空に還すお役目で。現身で顕れて外界の脅威と戦ったりする事は、想
定外です。神を封じるのだから、多少でも余裕があれば封じの強化に注ぐのが尋常な発想
で。外の敵は麓の羽藤の末裔や鬼切部に頼む物で。
千年オハシラ様を務めた竹林の姫も、現身で顕れる無謀はしませんでした。アカイイト
本編に明記のある、姫が外界へ為した最大の所作は。サクヤさんルートの回想・桂ちゃん
も夢で視た、サクヤさんが生命を落しかけた60年前の夜、寝付けずにいた笑子おばあさん
の現に蝶を飛ばし、ご神木へ招き寄せた事」
葛「読者みなさんはアカイイト本編を読んで、柚明おねーさんが現身で顕れる事を、当然
に感じていますけど。わたしルートでわたしが述べている様に、封じの要が現身を取って
ご神木の外に顕れる事が、尋常ではないのです。
桂おねーさんも、アカイイト本編の柚明おねーさんルート2日目夜に述べてましたね」
桂「『無い筈の物を有る事にするには、どれだけの力が必要になるんだろう。
形なき物を、世界に影響を及ぼす確かな存在とするには、どれだけの法則に逆らい、そ
して打ち破る必要があるんだろう。
それはきっと、気が遠くなる程の……』
幾つもの法則に逆らい打ち破って、ないものをあるものに変えて、顕れてくれたんだね。
わたしを、助けてくれる為に。わたしの犯した過ちを償う為に、ご神木に身を捧げた身を。
その上で尚わたしの危難を救ってくれる為に。読み返せば読み返す程、凄い事なんだね
…」
サクヤ「柚明の顕現は一種の奇跡だからねぇ。序盤だから見過ごされているけど。本来は
一つの話しのラストシーンに置いても良い程さ。
オハシラ様は全てをご神木の内へ注力する。外に出られる訳がなく、そんな発想も浮ば
ない筈なんだ。樹木が歩き獣が飛び機械が子供を産む無茶を叶えるには、途方もない無理
を突き抜ける必要があった。物語序盤でその奇跡をご都合主義でない様に描くには。焦れ
ったいこの前提を示す展開が必要だったのさ」
ノゾミ「血を呑んで心が繋って尚、観月の娘に伝えられるのが、曖昧な想いや印象のみで、
意思疎通が困難……観月の感応の鈍さ以上に。ハシラの継ぎ手の性質が、外界に何かを発
信する存在ではないのね。その制約を凌いで現身を作れた……今更ながらに唖然とする
わ」
葛「ノゾミさんがミカゲさんと夜のご神木を訪れたのも、まさかハシラの継ぎ手が現身で
外に顕れるなんて、あり得ないと思っていて、嘲弄に赴いたと言う事で、いーのです
か?」
ノゾミ「まあね。私達の力量では、槐間近の鬼を寄せ付けない結界に踏み込めない。真の
目的は主さまに私達の復活を報せ、元気づける事で。ゆめいの嘲弄はついでだったのよ」
桂「夜さかき旅館にわたしの血を呑みに来て、お姉ちゃんに防ぎ止められた時も、『どう
せついでだったのだし』って言っていたよね」
ノゾミ「あの時は悔し紛れよ。アカイイト本編の鬼切り役るーとではゆめいを破り、後一
歩の処迄追い詰めたのに。ゆめいるーとでは戦う事もせず、すごすご引き返さざるを得な
かったのだもの。あの力量比は疑問だったけど……柚明本章では作者が整合させたわね」
サクヤ「ちょっと話しが先へ進みすぎだよ」
柚明「未だ冒頭で語るべき事がある様です」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
6,真弓の葬儀後サクヤが桂と離れた裏事情
葛「サクヤさん、あの設定には触れないのですか? 後日譚第1.5話『人の世の毀誉褒
貶・丁』で明記してしまった設定なので、今更回避するのもどーかと、思いますけど…」
サクヤ「あれに触れるのかい? あれは久遠長文の追加独自設定で、アカイイト本編や柚
明本章には、余り影響しいと思うんだけどね。アカイイト本編の設定を明確に外れる訳で
もないから良いかも知れないけど。後日譚で明記したからね、あたしと松中財閥の関り
は」
桂「柚明本章執筆時には、設定してなかった、そのあと後日譚や柚明前章番外編を描いて
いく中で、伏線の様に数カ所にバラ撒いていた設定だよね。元ネタは、同じ二次創作の
…」
葛「ルーファスさんです。作者さんと同じ時期にアカイイトの二次創作を描いていて、お
互い影響を与え合った関係と窺っています」
ノゾミ「創作のぺーすがかなり速くて、作者は羨望の眼差しで見ていたと聞いているけど。
後、互いに感想を交換し合う仲だったとも」
柚明「アカイイトの二次創作でも、わたしに触れてくれた作品は少なく、彼と久遠長文位
だったので、久遠長文も注目していたと…」
桂「二次創作を始めた時期は作者さんが早く、追加設定で影響を与えた様だけど。ルーフ
ァスさんの方が執筆のペースが速く、追加登場人物の造型で、作者さんが影響を受けた処
もありますって。お互い独自性を尊重しあって、共通設定や共通登場人物にはしなかった
けど。
後日譚重視の人で、わたしが戦い守る強さを欲して剣道少女になって。全国大会を勝ち
進んだり、剣道のスポーツ推薦で大学に進んだり、アオイシロの主人公小山内梢子さんと
も深い仲になったり。柚明の章の作者さんが、これから構想したい様な処を描いていま
す」
サクヤ「後日譚第3.5話『縺れた絆、結い直し』に登場した千羽の剣士、東条誠八郎・
三上俊基・谷原英治のモデルも、ルーファスの処の千羽の剣士、東条誠・三上俊・谷原英
二だろ。両方とも柚明や烏月の様な主要登場人物には、及ばない程度の実質雑魚設定でさ。
あと柚明前章番外編第14話『例え鬼になろうとも』に話題の形で、特別編(真弓編)
の丙と丁に登場した、フェンシング使い『奇跡の女剣士』山田里奈は。ルーファスの処の
『伝説の女剣士』星崎栞に相応するかね。世界大会で実績を残した設定は類似しているけ
ど、鬼相手など、実戦での戦績はやや違うか。
里奈の娘で桂と同年代になる琉奈・玲奈姉妹が、ルーファスの処では星崎遙・渚姉妹で。
神の血や少女剣士の設定は、一応似ているね。向うさんと若干設定が違うのは、オリジナ
リティへの拘りと言うより、イタズラ心かね」
柚明「その人物ですとして使って、酷い待遇しても悪いので。逆に参考にしたのにそうで
すと示さないのも、問題と考え。一目で借りてきたと分る、よく似た名前の別人ですと」
葛「作者さんは、原作から設定や登場人物を許諾なく借りて成立する二次創作の、追加設
定や追加登場人物を、借用する事される事に、基本的に許諾不要との考えで。ルーファス
さんとの間には、先に柚明の章の設定を使われた時に、追加設定等の相互使用に許諾を出
しており。別に対応が必要になれば、その時々で話し合うと。これはルーファスさんのS
Sの読み手の方からの、質問に答えてですが」
ノゾミ「鬼や鬼切部に対抗できる様な強者が、町内やクラスにごろごろいては不自然に思
えたのよ。特にそう言う神や鬼切部の強者達が、表の剣術大会で衆目を浴びて活躍するな
んて。久遠長文の想定では、そういう強者は殺し屋とか詛い屋とか、裏の世界に潜む者だ
から…。
でも、姉妹作のアオイシロでは、片田舎で他の強豪との交流もなく、神職の片手間に剣
を取る者が『鬼切り役も正面から当たる事を避ける』と評され。剣道で全国優勝とは言え、
実戦で1人も切った事のない小娘が、単身鬼切部を襲撃し神剣強奪に成功するとか。夷の
王を名乗る神か鬼が、けーたいを持って昼間に主人公達と会話するとか。むしろ彼の設定
の方が、原作に近いのかも知れないわね…」
桂「ルーファスさんのSSでは、若杉財閥に匹敵する松本財閥傘下の警備会社で、お嬢さ
ん社長を務める松本美咲さんは。わたしの同級生で剣道部長で、わたしの剣道のお師匠様
で烏月さんに勝った強者で、贄の血より凄い効用を持つ『神の血』を宿し、幾世代も惚れ
た女性の子供に転生する事を繰り返してきた、正真正銘の女神様……設定が盛り沢山だ
ね」
ノゾミ「柚明の章後日譚では、複数人物にされているわね。松本美紀はけいの同級生で剣
道部員だけど所詮すぽーつ。不審者の本物の刃と殺意に逃げだし震えて抗えない程の娘で。
剣道は素人でも夏の羽様で生命のやり取りを見知ったけいの師になるには、余りに力不足。
一方で松本財閥ならぬ松中財閥傘下の警備会社の女子大生社長・松中靜華は、けいの2
つ年上で、私達と未だ直接の接点がないわね。剣道やふぇんしんぐやすぽーつちゃんばら
を扱う、小娘を束ねたあいどるぐるーぷを率いているけど……彼女らは後日譚第1.5話
で、けいやゆめいに危害を加えた側に属してよ」
サクヤ「その靜華社長が、見栄の良い女剣士を高額で広告塔に雇う財源に、経費削減と残
業代廃止を強行した。そのとばっちりがこっちに来たんだよ……この残業代廃止の設定も、
ルーファスのSS設定を作者が変形させた物だけどね。向こうでは美談になっているけど、
こっちでは扱いが逆で。残業代だけ廃止して社員の残業は減ってない、タダ働きを強いら
れている。その情報をあたしの知り合いのライターが調べに入って、財閥様の逆鱗に触れ。
そのライターは、後日譚第1.5話で桂と柚明がやられた様な、執拗な嫌がらせ電話や、
投石や家への放火をされ……車に撥ねられ重傷負って。見舞ったあたしも、それを探りに
来たのかと、狙われて口封じされそうになり。金持ちはどこもみんな似た事を考えるのか
ね。
腕づくで退ける事は出来たけど。観月のあたしが人を傷つけては、鬼切部の的にされか
ねない。とにかく血路を開いて遁走し、桂や真弓を巻き込む訳に行かないから、暫く桂の
家にも寄りつき難く。だから真弓の変調に気付けなかったと。これは柚明本章執筆時には
想定してなかった、後付の追加裏設定だよ」
柚明「叔母さんの逝去は、想定外でしたから。サクヤさんが、誰も身内の居ない桂ちゃん
の元に戻るのは当然です。でも長居しては桂ちゃんに禍が及びかねないと、サクヤさんは
桂ちゃんの落ち着きを待って一度町の家を離れ。山奥に来る分には問題ないから、羽様の
わたしに叔母さんの訃報を告げに来てくれたの」
葛「かくて柚明本章第一章『廻り出す世界』の冒頭になるのでありました……実はこの繋
ぎは、柚明本章第一章執筆時点では設定しておらず、柚明前章番外編や後日譚を書き綴り
つつ、後付追加設定していったよーですが」
桂「わぁ……後付の割りに実に自然な、作者さんらしい辻褄の合わせ方だね。サクヤさん
は元々お仕事で離島や山奥へ、何週間も何か月も写真を撮りに行く事もあって。遠く離れ
ていれば、お母さんの不調に気付けなくても、奇妙ではなかったけど。それ以上にわたし
達を巻き込まない為に、近づき難い状態だったって。それが更に後日譚前半の、遠くから
見守ってくれる展開に迄繋っていく。だからお母さんの葬儀が終った後、ずっと一緒じゃ
なくて、一度離れたんだって、得心できました。
1人になったわたしは、税理士さんから遺産が山奥の経観塚に残っていると聞かされて。
その場にいなかったサクヤさんに相談できず、単身経観塚に行きましたと。だからサクヤ
さんと一緒に経観塚へ行く展開じゃなく、後からサクヤさんが追いかけて来てくれました
と。わたしは、サクヤさんが直前に経観塚へ行っていた事を知りませんでした。うん、確
かにアカイイト本編や柚明本章の展開に繋るよ」
葛「作者はこの後、靜華社長が率いる剣術女子アイドル『靜華だけの七本槍』への強引な
勧誘に、松本美紀さんや小山内梢子さん、山田琉奈さんや千羽千代さんが巻き込まれ、そ
こに桂おねーさん柚明おねーさんも居合わせ、運命を絡み合わせる予定とも伺っていま
す」
サクヤ「あんたは設定からお得で良いよねぇ、ノゾミ。後日譚での出場頻度が最強クラス
らしいけど、執筆されればあんたはこの話にも、陪席できるって話しじゃないかい。あた
しも青珠に宿って桂と二十四時間一緒したいよ」
ノゾミ「前日譚重視で、柚明間章番外編や挿話迄考える作者よ。伏線の回収にも平気で数
年掛る。しかも後日譚は未だアカイイト本編の年を終えてない。登場が予約済と言っても、
いつになれば取り掛るのか、完成するのか」
桂「確かにそれは言えてるかも」尾花「…」
葛「松中財閥絡みの話しが本格的に描かれれば、対抗する形で若杉財閥のわたしや、サク
ヤさんの絡みも取り上げて貰えるですよー」
サクヤ「でもまた待たされるんだろ。本当に気長でなければ付き合いきれない作者だよ」
柚明「そこが改善点でもあるのですけどね」
ノゾミ「封印の千年に較べれば、一瞬の瞬きだから、私は待っていてあげても良くてよ」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
7.ご神木の内側、柚明と主と@
桂「柚明本章では、アカイイト本編では一度も触れられもしなかった、ご神木の内側が詳
しく描かれているね。当然のことながら登場人物は、主とお姉ちゃんの2人のみだけど」
葛「お話しの設定上、柚明おねーさんは暫く、ご神木を出られないですし。出ても桂おね
ーさんの崖落ち迄は、日中ご神木に戻らなければならず。桂おねーさん視点のアカイイト
本編ならともかく、柚明おねーさん視点の柚明の章では、これは避けて通れない処でしょ
ー。
ここはアカイイト本編では、絆の記憶でもファンブックでもウェブノベルでも、誰も何
一つ描かなかった、作品の裏側です。2チャンネル等でも推察さえされてない。作者さん
の追加設定の侭に描ける領域ですけども…」
サクヤ「ああ、良く描いて貰ったよ。姫様を喪わせる原因の主を、柚明を喪わせる原因の
主を、真弓や桂を哀しませる原因の主を、丹念に丹念に描いてくれて。千年伏せられた裏
設定を報された時は、名状し難い感情の大波に揺さぶられ、暫く我に返れなかったさ!」
葛「サクヤさん落ち着いて下さい。わたしは若杉葛です。作者ではありません。60年前に
恨みを買った仇の身内に過ぎないですよぅ」
桂「葛ちゃん墓穴掘っているよ」尾花「…」
ノゾミ「私にとっても千年の間一番だった主さまを、槐の中での主さまと竹林の姫や柚明
との関りを、あの様に描かれたのは衝撃だったけど……承伏できたとは言い難いけど……
今は観月の娘に発言の機を譲っておくわ…」
桂「ご神木の中でのお姉ちゃんと主の関りは、わたしも柚明間章の解説で詳しく知ったけ
ど、知って良かったと思う。ショックだったけど、驚かなかったと言えば嘘だけど……そ
れが柚明の章の基本設定で変えようのない事実なら、お姉ちゃんの傷み哀しみが変えられ
ないなら。
わたしもせめて、それから目を逸らしちゃいけない。それは本当はわたしが受けるべき、
受けなきゃいけない罰や報いなの。それで全てを正視しようとして、こうして解説を引き
受けた末に、他のみんなにも迷惑かけて心配させちゃったことは、ごめんなさいだけど」
葛「……桂おねーさん……」ノゾミ「……」
桂「胸が張り裂けそうでも、しっかり見なきゃダメ。それにずっと耐えて、耐えて尚わた
しを傷つけない為に、全て呑み込んで微笑んできた人が間近にいるのに。見る事にも耐え
られないなんてことは許されない。絶対に」
(柚明が桂に歩み寄り、後ろから抱き留め)
柚明「桂ちゃんごめんなさい。その優しく清い心に傷み哀しみを強いて。そして有り難う、
わたしをたいせつに想ってくれて。サクヤさんや他のみなさんも、心配させてしまって…。
わたしはたいせつな人の笑みに繋げられるなら、守りや支えに導けるなら。己に降り掛
る大抵の事柄は受け容れられるけど……正にその所為で桂ちゃん白花ちゃんを始め、サク
ヤさんや多くの人に、傷み哀しみを及ぼした。愛しい人達の心を騒がせ揺らがせ哀しませ
た。
一番たいせつな人だったのに。一番傷つけたくない人だったのに、いつも笑っていて欲
しい愛しい人だったのに、わたしの力不足で。その事が、本当に本当に、申し訳なくて
…」
サクヤ「柚明……あたしは、何もあんたを」
桂「お姉ちゃんは謝らなくて良いの。むしろ謝っちゃダメ! 柚明お姉ちゃんは何一つ悪
いことしてないんだもの……わたしは、わたしこそ自分がしたことの責任も取らず、都合
良く全て忘れて、愉しく人の世を生きてきた。
陽子ちゃんやお凜さんと学校行ったり遊んだり、サクヤさんやお母さんと家で寝転がっ
てテレビ見たり、遊園地行ったり映画観たり。美味しい物食べてマンガ読んでおしゃれし
て。何の負担もなく長閑に安楽な日々を過ごして。
その間寝ても醒めても24時間三百六十五日、お姉ちゃんはわたしの為に、嗣ぐ筈のなか
ったオハシラ様を引き受けて、主に酷い目に遭わされて。未来に希望を抱けなくさせられ
て。
拾年後にはそんなわたしを守る為に、何度も何度も消滅の危機に瀕して。それでもわた
しを愛し助け救い守り通してくれて……謝らなきゃいけないのはわたしなのっ。傷ついた
お姉ちゃんが謝ることは、何もないのっ!」
柚明「そうじゃないわ。わたしは、桂ちゃんが傷み哀しみを負った事実に謝りたい。禍を
防ぎ止められなかった無力を、その場に居合わせ励まし癒し助け守り通せなかった失陥を、
その為に桂ちゃんが堪え零した涙に謝りたい。
拾年前の夜は、わたし達大人が防がなければならなかった。あなた達が起こした禍じゃ
ない。あなた達は禍に誘われ導かれ、為す術もなく巻き込まれたの。後日譚も含めてあの
夜の背景を、桂ちゃんも全て知ったでしょ?
何も知らない無力な幼子が、あの状態で長く鬼の禍を回避し続ける事は叶わない。近く
の大人が気付いて危険の芽を、摘み取らなければならなかった。それは大人の責務だった。
……悲劇を防げなかった上、ご神木を離れられなくなったわたしは、心に甚大な傷を負
ったあなたを、間近で抱き留め支える事さえ叶わなかった。最も辛く哀しい時に何の助け
も為せず。叔母さんやサクヤさんに負担を掛け通しで。己の無力は、今でも心底呪わしい。
……桂ちゃんがわたしの存在を忘れた事を、苦に思う事は何もない。申し訳なさも罪悪
感も要らないの。壊れそうな心が必死に生き抜こうとしただけ。それは誰にも責められな
い。
むしろ過去を忘れなければ耐えられない程の目に遭わせた事が、わたし達羽藤の大人の
拾年前の咎。だからあなた達には、当時の羽藤の大人を代表して、わたしが謝らなければ。
最もたいせつな人、一番愛しい人、この世の誰にも代え難い人。その微笑みを望み続け
てきたのに、その幸せを願い続けてきたのに。その優しく清く美しい心に傷み哀しみを強
い。わたしはこの拾年、何一つ力にもなれず…」
桂「ちがうよ、違うの。わたしは羽藤桂の辛さを訴えたい訳じゃない。わたしの傷み哀し
みを、防げなかったと責めてる訳じゃないの。わたしは、わたしのせいで陥ったその酷い
状況で、一番感謝しなければならないわたしにまで忘れ去られ、生命を抛ったその後迄何
度も何度も魂を危うくして、それで尚幸せって微笑んで語るお姉ちゃんが。尊く優しく強
く綺麗で哀しすぎて。わたしが愛しい人にそこまでさせてしまった事が、申し訳なくて
…」
(桂が柚明の胸元に迎えられて頬を埋める)
桂「わたしの傷に哀しまないで。わたしの涙に傷つかないで。わたしなんて拾年の間も今
も、そこ迄してもらえる程の何も出来てない。わたしの傷み哀しみなんて、お姉ちゃんの
万分の一にもならない。お姉ちゃんにはお姉ちゃん自身の傷み哀しみがあるでしょう?
お姉ちゃんに守られて、軽く小さく済んだわたしの傷み哀しみに、心揺らされないで。も
っとこれまでのお姉ちゃん自身の傷を顧みて」
葛「桂、おねーさん……」ノゾミ「けい…」
サクヤ「少し2人に時間をおやり。暫くはあたし達も作者も、見守る他に為す術がないよ。
しかしまぁ、桂が幾ら柚明を深く想っても、2人の絵図は桂が柚明に泣き縋り、桂の体
が幾ら成長しても、幼子の頃と構図は同じと」
ノゾミ「ゆめいは体が小娘でも、心がけいより年長である以上に、強靱に鍛えられている
から……けいがゆめいに泣き縋るこの光景は、いつも見ている物だし別に奇妙ではない
わ」
葛「千歳くらい年長でも、桂おねーさんより心で年長な印象のない方も、いますけど?」
サクヤ「何か言われているよ、ノゾミ。自覚を持って、きちんと突っ込みを入れないと」
ノゾミ「言われている当人が無自覚なのね」
葛「千年位先迄思いやられますね2人とも」
(暫くの間、柚明が桂を抱き留め頬合わせ)
柚明「桂ちゃん、有り難う。その強い想いは何より嬉しい。そしてごめんなさい、わたし
の為にあなたの心を揺らがせた事が、本当に申し訳ないわ。わたしの所為で心を傷めて」
桂「そうじゃないのっ。わたしは、お姉ちゃんがわたしのせいでわたしの為にしたことで、
わたしに謝ることはもう要らないのって…」
柚明「わたしは、心からあなたに謝りたいの。お礼を述べたいのと同じ位に。それが自己
満足に近いと分っていても。あなたにお礼と謝りを伝えたいのはわたしの想い。桂ちゃん
を愛し守りたいわたしの願い。桂ちゃんがいてくれた事が、昔も今も羽藤柚明の救いなの
…。
わたしの前に生れてくれた事が、わたしの人生に彩りを与えてくれた。それがわたしの
生涯の感謝で。僅かでも涙流させてしまった事は、生涯わたしの痛恨なの。わたしには己
の傷みより桂ちゃんの傷みの方が、耐え難い。
だから感謝と謝罪は永久に尽きる事がない。
わたしは相当我が侭な女かも知れないわね。
そしてサクヤさん、桂ちゃんのみならずわたし迄たいせつに想ってくれて、本当に有り
難うございます。そしてわたしなんかの為にその綺麗な心を曇らせてごめんなさい。サク
ヤさんにはわたしは一番でも何でもないのに、強い想いを寄せて戴いて。なのにわたしは
その想いにしっかり応えられず。拾年前も今も。ノゾミちゃんや葛ちゃんや尾花ちゃんに
も」
サクヤ「後で良いよ、あたしらの事は。あたしらへの想いは別の処で……特にあたしへの
想いはあたしの柚明への想いと一緒に、じっくり解そうじゃないか。今のあんたは、桂の
想いをしっかり受け止める事に、集中おし」
− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −
8.真弓の死の裏側には特段の異変なし
葛「桂おねーさんが落ち着き、柚明おねーさんも初期配置に戻ったので、解説再開です」
桂「ごめんなさい。わたしのせいで、進行が遅れちゃって。お姉ちゃんにもみんなにも」
柚明「大丈夫、桂ちゃんは頑張っているわ」
サクヤ「気にしないで良いさ。どれだけ道草喰っても、最悪纏まりの付かない終り方でも、
本編に影響のないお約束だよ。元々暇潰しのバイト代りだし、桂の気持が収まって続ける
気があるなら、桂のペースで再開すればいい。みんなは講座の先行きより桂が大事なん
だ」
ノゾミ「それには私も全く同じ意見だけど……ゆめいやけいに辛い話題が続くこの話しの
解説に、ゆめいはともかく素人のけいを招いたのは、そもそも妥当だったのかしら…?」
葛「懸念がない訳ではないですけど……桂おねーさんは、しっかりこの話しを見つめ直し
たいとの意志で、始めた訳ですし。桂おねーさんも、夏の経観塚での様々な出来事を経て、
心の強さを培っています。万全と迄は言えませんけど、その意志がある限り、わたし達は
桂おねーさんの判断を助け支えるべきかと」
サクヤ「作者自身が全て解説し通す形式を取らなかった以上、登場人物を招く形を取った
以上。誰かが作中で描かれた自身の傷み哀しみに直面せざるを得ない。それは分るさ……
わざわざ桂を招かなくてもとは思うけどね」
柚明「この紆余曲折も、久遠長文は読み込み済みなのでしょう。柚明の章やアカイイト本
編は、主要人物の誰にとっても、傷み哀しみを回避できない話しですから。むしろわたし
達の方が、桂ちゃんの足を引っ張ってしまわない様に注意しなければ。桂ちゃん、サクヤ
さん、ノゾミちゃん、葛ちゃん、尾花ちゃん。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いしま
す」
桂+葛「こちらこそよろしくお願いします」
サクヤ「分ったよ……羽藤の血筋の頑固さは、この六拾年間思い知らされて来たからね
ぇ」
ノゾミ「仕方ないわ。この面々にあなた達だけでは頼りないだから、付き合ってあげる」
桂「……では解説を再開しますっ。最初はご神木に宿るお姉ちゃんをサクヤさんが訪れて、
お母さんの訃報を告げる処です。ここは…」
サクヤ「あぁそこはあたしに語らせておくれ。あたしがご神木の柚明に語りかけた処だか
ら。
作者は真弓の死因を改変しなかった様だね。あたしも医者から報された内容をその侭伝
えている。2ちゃんねるのアカイイトスレでは、元当代最強が『持病もなくケガもなく、
少し寝込んだと思ったらその侭』過労死の様に逝ったって辺りに不審を抱き。真弓が裏で
請けていた鬼切りに伴う、悪鬼の詛いや反撃が死因で。真相は伏せられていると推測する
者もいたけど。作者はそれは採用してないね…」
葛「若杉が絡めば、真相を隠す事も可能ですけど。桂おねーさんやサクヤさんが臨終に立
ち合って、異変も不審も感じてないですし」
作者メモ「桂が真弓の臨終に立ち合ったとの明記は、本編中にもファンブックにも、ウェ
ブ小説にも絆の記憶にもないのですが……ここは常識的に考えて、そう読むべきでしょう。
桂が母の最期に立ち合えてなければ、その残念さ悔しさは、アカイイト本編の桂に絶対
尾を引いている筈で。その記載がない以上桂は真弓の臨終に会えたとの推察が合理的です。
そこで感性の鋭い桂が不審を感じてないのに、死因に異変ありと裏読みするのは無理があ
る。
サクヤを追加しても状況に大きな違いはありません。異変がない以上、観月の目や鼻を
通しても不審を感じなかったのは至当です」
ノゾミ「けいの母の死因が、悪鬼の詛いや反撃の所為ではないって処は、けいの禍だった
私には、僅かでも救いだわ。この上でけいの母の仇の悪鬼がどこかにいるとか、話しが展
開していくのは、私はともかくけいに酷よ」
サクヤ「当代最強を詛い殺す様な強い悪鬼を、話しの裏で勝手にオリジナル登場させるの
は、作者の好みではないし。『なんでそんな奴が野放しなんだ。若杉も鬼切部もそっちに
総力投入だろ』って話しになり、白花討伐に千羽の鬼切り役が、経観塚へ来る話しも吹っ
飛ぶ。
アカイイト本編の盛り上がりを凌ぐ敵や話しを置きたくないのは、久遠長文の配慮かね。
『原作者の麓川氏も、真弓の死という前提条件・舞台設定はしたけど、深入りせず、さら
っと流したかったんだろう』って、これは久遠長文の推測だけど。多分そんな処だろ?」
柚明「桂ちゃんが過去を何も知らされず、独りで経観塚を訪れる状況を、作る為なのね…。
叔母さんが存命なら、桂ちゃんの羽様来訪に必ず同伴した。そうなればノゾミちゃんも
ミカゲも脅威じゃない。白花ちゃんが来ても、烏月さんを退けた後で双方の仲を繋ぎ、安
全に主の分霊を還せた。羽様で桂ちゃんに過去を訊かれれば、叔母さんも隠す訳に行かな
い。桂ちゃんの赤い痛みも少しは緩和されたかも。
そもそも羽様にお屋敷があると桂ちゃんが知ったのは、叔母さんの没後に財産整理して
税理士さんに報されてだから。桂ちゃんが羽様を訪れる事情や、必然がなくなってしまう。
……その為に、アカイイト本編を始める為に、叔母さんの死がなければならなかったとい
うのは、わたしには納得出来ませんけど…!」
桂「柚明お姉ちゃん……」葛+尾花「……」
サクヤ「そこはアカイイト本編の基本設定だからね。人はいつか生命を落す。観月のあた
しやノゾミにも、その時は訪れる。納得できないって処ではあたしも同じだけど、変えら
れない事は変えられないんだ。久遠長文もそこには手を加えない・加えられないって…」
葛「過労の背景に、鬼切りの疲弊の反動という裏設定を、追加で挟み込ませましたけどね。
アカイイト本編烏月さんルートの3日目夜、烏月さんが魂削りでノゾミさん達を退けた
直後に、魂削りを発動させた疲弊の反動で倒れ込んで、桂おねーさんの布団で2人同衾す
る。
そこから作者が発想した『後に反動を呼ぶ生気の前借り』を千羽の技として、遡って桂
おねーさんのおかーさんにも適用し。作者も当代最強が普通に過労で倒れるのは、疑問だ
った様で。今時点で強い敵がいる訳ではなく、過去の疲弊が今発現したと設定した訳で
す」
ノゾミ「柚明前章・第四章『たいせつなひと…』終盤で触れていたわね。これを導く為に、
柚明前章番外編で時折けいの母の体調不良を描いて。それが柚明本章にも連なってくる」
桂「逆にお母さんを生かす方向へ、鬼切部は動かなかったのかな? 事情があって実家を
離れたとは言え、世の影に潜む悪鬼を切ってきた当代最強の剣士を、鬼切部が特別な措置
も執らず、衰弱するに任せたのは疑問だよ」
葛「作者メモによると、若杉は当主死亡直後の虚脱状態で、白花さんの実母という微妙な
立ち位置にいる桂おねーさんのおかーさんに、率先して先端医療や呪術等の延命や救命を
しなかったと。気の利く者がいなかったよーで。
鬼切部のどこかの党に属していれば、そのカバーもあったでしょうけど。彼女は羽藤に
嫁入りして以降、千羽とは絶縁状態で、この時点では若杉直属の、フリーの鬼切りでした。
実家の千羽も、白花さんと明良さんの案件で混乱の渦中にあり。助けの手を渋ったので
はなく、異変に気付けなかったよーです…」
サクヤ「更に言えば真弓のこの時の容態は深刻で、最先端医療や若杉千羽の癒し部等では、
対応できなかった可能性が高いって、これは作者の裏設定だけど。この時の真弓の疲弊は、
拾年前の夜のノゾミとの交戦に伴う物だとさ。
アカイイト本編の柚明ルートの回想では一撃で切られていたけど、作者はノゾミの戦力
をかなり高く評価していて。経緯や結果以上に真弓の疲弊は大きかったと見ている様だね。
拾年前のあの日は、元々過去の鬼切りの疲弊が顕れ、静かに過ごさなきゃいけない日だ
ったのに、強敵と戦う事になって、更に無理矢理未来から生気を前借りした結果、致命傷
に限りなく近い代償が、予約されたって…」
桂「お母さん、わたしの所為で生命を縮め」
ノゾミ「私の……所為なのね。けいの母を」
柚明「桂ちゃんっ……ノゾミちゃん……!」
サクヤ「話しは最後迄聞きな。拾年前の夜の真弓の疲弊は、それより前にあたしと戦った
時に真弓が為した生気の前借りの反動なんだ。
柚明前章第4章『たいせつなひと…』の解説で、一度触れていただろう? その反動が
出た日にあの禍が起きて、真弓は戦う力を得る為に、更に未来から生気を引っ張り出した。
何もない日なら、重複のない生気の前借りだったなら、昏睡や脱力位で凌げた筈だけど…。
真弓の生命力がこの夏極度に落ちた遠因は、ノゾミとの戦いだけじゃない。それじゃ当
代最強を死なせるには力不足だって、作者はね。ノゾミを高評価しつつ尚真弓が更に上だ
って。だからあたしとの戦いの疲弊を更に上乗せし。そこに感冒が混じったのが最期の一
押しだと。そこはもう運というより運命の織り成す物さ。
あたしも、真弓の死因の一翼を担っていた。報されて初めて分る苦味だけど。更に真弓
は、去年の明良の死以降密かに無理を重ねていて、この夏には柚明でもなければ助けられ
ない状態だったと。作者が言うには、拾年前の夜と同様、真弓の死も前日や一週間前に回
避の分岐はない。もっと遡り、そうなると誰も予測も出来ない頃から修正する必要があっ
たけど、そんな頃からこの結末を見通せる者なんて」
葛「表現が不適かも知れませんが、終って確定した過去です。誰の責任とか誰の所為とか
回避の術等を、掘り返す意味は薄いのでは?
いえ、何もわたしは六拾年前の責を回避したくて、言っている訳ではないですよ。あの
件については少し時間を戴きますが、詳細に調べて見直す必要があると思っていますから。
でも桂おねーさんに係る事柄については…」
桂「葛ちゃん、ありがとう……でも、わたし、お母さんが死んじゃう程疲弊していたこと
を、気付く事も出来なかった、悪い子で……あ」
(桂は自身の咎を懺悔しようとして、それが俯くノゾミを傷つけ追い込む事になると察し、
言葉を淀ませる。柚明がそれを察して頷き)
柚明「葛ちゃんの言う通りかも知れないわね。サクヤさんと叔母さんの戦いは凄絶で、後
に反動を招いたかも知れないけど。その戦いを経て、2人は互いの為人を分り合い、無二
の親友になれた。その戦いがなければ、或いは反動を伴わない中途半端な戦いをしていれ
ば、2人は深く分り合えない侭、終っていたかも。そうなっていれば、その最中に生じた
叔母さんと叔父さんの巡り逢いも、結婚もなかった。
白花ちゃんも桂ちゃんも生れず、わたしは暗闇の繭に沈んだ侭で。拾年前の夜はなかっ
たかも知れないけど、こうして葛ちゃんや尾花ちゃん、ノゾミちゃんと語らう日は来なか
った。禍福は糾える縄の如し。全てがセット。どこか都合良い処だけを取り出して遺し、
嫌いな処を切り離して、済ませる事は出来ない。
桂ちゃんも白花ちゃんも悪くない。サクヤさんもノゾミちゃんも、たいせつな人の為に
全力を尽くしただけ。叔母さんも……早すぎる終りは残念だけど、心残りある最期だった
でしょうけど、精一杯生き抜いた結果なら」
桂「そうなんだね。残念だけど……こればかりは変えようのない基本設定なんだものね」
ノゾミ「けい、あなたは……私を恨んで良いのよ。嫌っても、憎んでも、滅ぼしても生命
ある限り詛い続けても。私は、あなたをたいせつに想う様になった私は、己が断罪される
べきだと思う。むしろ裁かれたいとさえ…」
サクヤ「ノゾミ……」葛「ノゾミさん……」
桂「ありがとうノゾミちゃん。わたしを気遣ってくれて。そしてごめんね、心配させちゃ
って。拾年前の夜はノゾミちゃんだけの責任じゃない。わたしこそが原因だから、しっか
り自身の過去を受け止めないと。お父さんもお母さんも白花お兄ちゃんも、お姉ちゃんも
わたしを強く愛してくれていた。ノゾミちゃんも今はわたしを、大事に想ってくれている。
拾年前のノゾミちゃんも、たいせつな人の為に誠を尽くした結果なら、責められないよ。
たいせつな人の為に必死な心境は、分るから。
今はノゾミちゃんもわたしの生命を繋いでくれて、深く心繋げたたいせつな人。わたし
のたいせつな柚明お姉ちゃんや、葛ちゃんやサクヤさんのこともたいせつに想ってくれる、
優しく強く可愛い女の子。わたしは誰かを憎むより誰かを愛したい……って、わたしお姉
ちゃんのいつかの台詞を借りちゃている?」
ノゾミ「けい……」葛「桂おねーさん……」
サクヤ「柚明前章番外編第8話『従妹のために』の終盤だよ。中学2年生の冬だったっけ。
柚明は女に甘すぎるから、自身を害し穢そうとした相手でも、女の子の危難は捨て置け
ず、傷みを負っても庇い守る。その理不尽に、当の敵方が混乱し問い詰めてきた時に発し
た柚明の答、柚明が行動を決する理由と目的さ。
その無謀や甘々は、確かにアカイイト本編や柚明の章の柚明に、通底し繋っている…」
桂「そして、お母さんや柚明お姉ちゃんやサクヤさん達に、深く想われ愛されたわたしは、
大事に想われる値のある女の子にならなきゃ。みんなから寄せてもらった想いを返せる様
に。
お母さんは喪ったけど、お兄ちゃんの傍に居られないけど。心からそう想えるたいせつ
な人が居てくれる今は、とても幸せです…」
柚明「桂ちゃんは本当に、心強く優しく賢く愛らしく、常に前向きな女の子。桂ちゃんと
白花ちゃんがわたしの前に生れてくれた事が、巡り逢ってくれた事が、わたしの幸いよ
…」
サクヤ「そう言う強さは、あたしの持てない羽藤らしさだね。柚明の台詞を借りたって言
うより、柚明が笑子さんから引き継いだ羽藤の思考発想・考え方や在り方の基本を、桂も
真弓を通じてしっかり受け継いでいたって事さね。あんた達は間違いなく羽藤の裔だよ」
「第7回 柚明本章・第一章『廻り出す世界』について(乙)」へ進む