第13話 麗香との危険な夜



前回迄の経緯

 羽藤柚明は中学3年生になりました。最上級生になって、年下の子に振り回されつつも、
幼稚園に通い始めた白花ちゃん桂ちゃんの愛らしさに、目を細める日々を過ごしています。

 その幼子の縁で、桂ちゃん白花ちゃんの最初のお友達になってくれた渚ちゃん遥ちゃん、
その母で若く綺麗な麗香さん、父で警備員の筋肉隆々な青島健吾さんと知り合って。絆を
深める内に、青島家の家族の事情に深入りし。

 麗香さんの悩みに寄り添って、肌身も添わせて心を開き合い。夫の前で麗香さんと唇を
重ね、憤激した彼に武道の立ち合いを望まれ。健吾さんとも最後は想いを繋ぎ直せたけど
…。

 参照 柚明前章・番外編第9話「想いを届かせた故の」


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


 青島夫妻と幼子2人を羽様のお屋敷に迎えたのは。梅雨の合間を縫って晴れた、休日の
朝拾時過ぎで。二十歳代の若く屈強な男性と、学生にも見えるスタイル良い女性と。この
春から幼稚園に通う羽様の双子と同じ歳の子が。

「こんにちは、柚明ちゃん」柔らかな女声に。
「ゆめいおねー」「おねー」可愛い声が続き。

「こんにちは、訪れて頂けて嬉しいです…」

 休日でも中学校のセーラー服で、緑のアーチの外へ迎えに出たわたしに、幼子は走り寄
ってきて。幼い兄弟に応える為に、屈み込み。頬に頬合わせ仕草で肌身に歓迎の想いを伝
え。

 2人は同じ年度の生れだけど双子ではない。兄の渚ちゃんが4月4日生れで、弟の遙ち
ゃんが翌年三月三十日生れで。ほぼ一歳違う渚ちゃんが体も大きく溌剌で、桂ちゃんと元
気さん同士仲が良く。白花ちゃんと遙ちゃんが気が合う様で。揃ってわたしに懐いてくれ
て。

 小さく柔らかい男の子。桂ちゃんと白花ちゃんの最初の同級生でお友達。たいせつな人。

 幼い2人を肌身に受け止め愛おしむ間に。
 青島さん夫妻は傍に歩み寄ってきていて。

「今日は色々な面で世話になるよ」「はい」

 昨秋警察官の職を辞し、警備員として経観塚に移り住んだ健吾さんは、剣道と空手の達
人で。身長百九十センチ、体重百キロの体は、腕や肩に筋肉の山を有し。わたしを片手で
持ち運べそう。麗香さんと並べば美女と野獣だ。

 麗香さんは二十歳代前半の、大きな胸とお尻にくびれた腰の見事な美人で。わたしと肌
身も頬も唇も重ねた愛しい女性。先日はその故に、健吾さんと武道の立ち合いを為す事に。

「ゆめいおねえちゃんっ」「ゆーねぇ……」

 背後から羽様の双子がわたしを追って現れ。
 焦点の移った幼い兄弟から身を解き放たれ。
 わたしは間近な若々しい夫妻に軽く会釈を。

「お待ちしていました。どうぞあがって…」

 少しの諍いを経た関係だけど。誤解も解け、互いを想う気持も確かめ合えたから。後は
誠意を尽くしてこの絆を、確かに強く繋ぎ直す。わたしは何の蟠りも残してないと伝える
事で。

「……渚ちゃん、遥ちゃん?」

 大人2人を招いて歩き出そうとしたその時。
 再び膝下に2人の腕が体が絡みついて来て。

 歩き出すと幼い兄弟が危ないので、暫し動けない。その上白花ちゃんと桂ちゃんも、競
争意識でわたしの膝下に腕を回し。スカートの下を見る意味も見られる意味も、分らない
幼子だけど。もぞもぞとした感触は否めない。

 再び屈み込むわたしに、幼子4人は我先にくっついてくる。わたしも抱き寄せて頬を合
わせつつ声を交わしつつ。いつ迄も大人を待たせる訳にも行かないので。右手に遥ちゃん、
左手に白花ちゃんを抱きつつ。右の二の腕に桂ちゃんが、左の二の腕に渚ちゃんがぶら下
がった侭、立って羽様の屋敷へと大人を導き。

「柚明ちゃん。大丈夫?」「はい、何とか」

 心配そうな顔色の麗香さんに健吾さんが、

「細身に騙されるなよ、麗香。彼女もお前を片腕で運べる位の腕力は、持っているんだ」

「あなたの見立てが正しい事は、分っていますけど。柚明ちゃんの強さは、先日あなたと
の対戦で見せつけられましたけど。でも…」

 渚ちゃんと桂ちゃんの腕力が、尽きる前に一度歩みを止めて屈み込み。今度は腕を回し
て両腕で2人ずつ幼子を、この身に抱き留め。胸に幼子の柔肌を密着させ、立って振り返
り。

「これで、大丈夫です」「柚明ちゃん……」

 きゃっきゃっと歓声を上げつつ、この頬に触れてきたり髪を引っ張ったりする幼子達に。
弄られつつ麗香さんに微笑みかけ。健吾さんが『見た通りさ』と短く頷くと、二児の母は。

「私は母になっても強さに程遠いけど、母になる前から強く賢い女の子もいるのねぇ…」

「彼女が母の強さを得た時を考えると身震いするよ。俺の連れ合いには麗香が似合いだ」

 妙な処で夫婦和合の出汁になった様だけど。

 麗香さんが健吾さんの肩に首を預ける姿は。
 愛しさや安心が滲み出てとても良好なので。

 わたしは幼子を両手に抱いた侭2人を導く。


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


 青島さん一家と知り合ったのは、中学3年に進級したこの春だった。白花ちゃん桂ちゃ
んの幼稚園からの帰宅バスを見送りに。下校途中に幼稚園を訪れて、羽様の双子と同学年
の兄弟を迎えに来た麗香さん達と、巡り逢い。

 切り揃えた黒髪の柔らかな幼子は、体のサイズが大人よりやや小さいわたしを、子供に
近しい仲間と見てなのか、良く懐いてくれて。その縁で、麗香さん健吾さんとも打ち解け
て。

 長く艶やかな黒髪の麗香さんは、怒り肩で背も高く、胸もお尻も大きくて、腰のくびれ
が見事で。若々しくて、大学生でも通りそう。スカートで隠した左太腿や、長袖に隠れた
左腕のケガを尋ねると、家で転んだのと苦笑い。気が急くと、柱にぶつかったり足を引っ
かけ。俊敏じゃないの貴女が羨ましいと話を振られ、

『私は体育も苦手な運動音痴で、夫の武道の話に付き合えなくて。この辺は道場もないし、
ウチの人も仲間を捜しあぐねて。だから貴女を見た時、黙っていられなかったと思うの』

『おとうさんは、おまわりさんなんだよ…』

 振り返れば、伏線は張り巡らされていた。

『昨年秋から警察は辞めて、警備の仕事についているんだ。制服も紺色だし、やる事も肉
体労働で勤務時間も似ているから、渚も遙も違いが良く理解できてないみたいだけどね』

『君は、正規に何か武道を習っているのかね。柔らかで自然で、相当な使い手に見えたけ
ど。空手ではなさそうだが。でもその華奢な体でさっきの構え。俺が蹴りを放っても対応
の術があると見えた。一度手合わせ願いたいな』

 健吾さんは空手や剣道の達人で。筋肉は腕や肩に小さな丘を作り。短い黒髪に四角い容
貌は野生を秘め。常識で言えば中学生の女の子に武道の手合わせ等望まない。それで尚外
見に騙されず、歩き方や佇まいからわたしの技量を喝破できる。眼力も備えた強者だった。

 そして別の日の下校途上、下級生の諍いに首を挟めていたわたしを見かけた麗香さんは、

『見事なものねぇ……貴女、教師向きかも』

『中学進学のストレスは、少数派である羽様小出身者のみならず、多数派である銀座通小
出身者にもある様で。人とつるんで他人をあげつらう行いも、彼らの本来の姿じゃなく』

 彼らもそうして友を、仲間を、絆を作りたかった。誰かを一緒に弾き、のけ者にする事
で、仲間意識を確かめ合うのは間違いだけど。原因が心細さで不安であるなら。適切な解
決策を教えれば、敢て醜い方向に人は進まない。

『ごめんなさい。わたし、大人を前に生意気語っちゃって。わたしの悪い癖です。同級生
や先輩にも過去何度か言われたのに。その』

 出会う人全てを守る対象に見下していると。
 許し諭して受け容れる弱者扱いしていると。

 羽様で年の離れた双子と日々過ごしている為かも……でもそんなの言い訳にならないし。
それを口に出している辺りで、既にダメダメだけど。慌て出すと喋れば喋る程泥沼に嵌り。

『物静かな大人の女性には中々なれません』

『……ふふっ、可愛いわね。生意気な迄に思慮深く優しく強い処も、受けた指摘を思い出
して慌て出す子供っぽい処も。私にも、貴女の様な姉か妹がいれば、良かったなって…』

 私も昔、虐められっ子でね。貴女が関っていたという以上に、からかわれた男の子が私
に重なって見えて、少し様子を窺っていたの。

『だから貴女のさっきの解決には本当に心を射貫かれた。夫が言う程の強さを持つ筈の貴
女が。年下の彼らを叱りつけ、追い払う事は簡単だったのに。一度も脅しもしなかった』

 唯真剣にあの子を友に迎えてと、頭を下げてお願いし。被害者に感情移入したわたしは、
貴女が彼らを叱りつけるか追い払うかを期待していたの。昔の私と違って今の貴女はその
強さを持つ。でも、そんな場面は遂になくて。

『貴女は彼らを納得させて、その心を導いて、友達にしちゃった。加害者と被害者を仲良
くなんて、今迄考えた事もない。どうやって手出しを止めさせるか、遠ざけるか、関りを
なくすか。それしか考えつけなかった。私…』

 男の子達が揃って貴女を慕った気持が分る。
 虐められっ子の事だけを想う訳ではなくて。
 虐めた側も想う事で全体を良い方向へ導く。

『貴女を見ていると心が清められる気がする。貴女に逢って話すと心が強く幅広くなる気
が。今からでも人生を取り戻せる様な気になれる。夫の立ち合いの申し出とは別に、偶に
私のお話し相手を、お願いしても良いかしら…?』

 柚明ちゃんって、呼ばせて貰っても良い?

『話していると年上の様にしっかりしているのに、目に映るのは中学生の制服姿。時々子
供の面が出て困ったり恥じらう様も可愛いわ。

 柚明ちゃんと夫がいてくれれば、今日も明日も元気に乗り切れる気がする。頑張れる』

 ああ。その詞はわたしには殺し文句です。

 たいせつな人の日々を支える事がわたしの望み。たいせつな人の笑みを保つ事がわたし
の願い。たいせつな人の力になる事、役に立てる事がわたしの生きる意味です。ですから。

 約束させて下さい。生意気と承知の上で。

『青島麗香は、青島渚は、青島遙は、青島健吾は、みんな羽藤柚明のたいせつな人です』

 心の限り尽くさせて、守らせて、愛させて。
 だから気易くその繋りを手放す事は出来ず。

 小雨降る肌寒い休日の午前中、銀座通にある青島さん宅の中庭で。ベランダの外に閉め
出され、雨に濡れて泣き叫ぶ幼い兄弟を見て。

『おかぁさん、ごめんなさい』『さむぃよ』
『もぉごはん、こぼしません』『中いれて』

 瞬間、体は動いていた。高さ1メートル半程あるブロック塀を、一足で飛んで着地して。

 両の頬に2人の頬を迎え入れる。両の腕で両の背中を抱き留める。両の胸で幼子の身を
確かに受けて、温もりを伝え、一緒に濡れる。

『渚ちゃんと遙ちゃんが寒さに震えています。雨に濡れて身体が冷えています。身体を拭
いて暖めないと、風邪を引いてしまう。早く』

 庭を伝って玄関に回ったわたしに、ドアを開けてくれた麗香さんを見てわたしは驚いた。

 長く艶やかは黒髪がぼさぼさで、顔色は青白く憔悴し。肉体的な疲れより、精神的な疲
れが色濃く反応が鈍い。幼子の事がなければ、麗香さんを寝付かせるべき状況だった。で
も。

『……あとは私がやるから、貴女は帰って。
 子供を見てくれて、有り難う。じゃ、又』

『待って……。教えて下さい、一体何が?』

 どうして雨の中、肌寒い気温の中、子供を外に放置して。2人とも泣いて叫んで、家に
入れてとお願いしていたのに。2人の子供を心底たいせつに想っていた、麗香さんなのに。

 でもその問いかけが断絶を招いてしまい。

『これ以上関らないで。これは青島家の問題なの。渚も遙も、貴女の子でも従弟でもない。

 貴女がした事は他人の家への不法侵入です。今度貴女が同じ事をするなら、私はそれを
学校や警察や保護者に通告して、告訴します』

 愛しい絆が一度断たれたのは宿命だった。

 それでもわたしは諦めきれず。健吾さんも、渚ちゃん遥ちゃんも、麗香さんもたいせつ
で。

 別の日の放課後商店街の裏でわたしは独り。
 幼子を連れて帰る途中の麗香さんを待って。

『先日は……申し訳、ありませんでしたっ』

 麗香さんは、躊躇い気味に足音を近づかせ。
 幼子を連れてその侭すれ違って、歩み行き。

『行きましょう』『またねぇ』『あしたっ』

 母の促しに従った、甲高い幼子の声が後方に徐々に離れて行く。2分位経っただろうか。

『受け容れられなくても謝り続ける積り?』

 一体何に謝ってくれるというのかしら?

『わたしは酷い女です。麗香さんの心の苦しみを視もせず、目先に見えた事だけに心を揺
らされ、麗香さんを問い詰めてしまいました。麗香さんの話しを聞くと約束しておきなが
ら、己の感情をぶつけてお話しの口を閉ざそうと。

 あんな事を麗香さんが望んで為す筈はないのに。麗香さんも心を痛め続けていたに違い
ないのに。その気持を受け止める事をせずに、心を閉ざさせてしまいました……わたし
は』

 たいせつな人なのに。たいせつな人のお母さんなのに。綺麗で優しい人なのに。わたし
の拙劣な応対が拒絶を導いた。わたしも本当はその苦悩に、一緒に向き合いたかったのに。

 一度仲良くなれた人と別れるのはわたしも辛いから。きっと麗香さんも心が痛んでいる。
わたしの所為で痛めてしまった事に謝りたい。彼女の苦悩を受け止め損なった事に謝りた
い。

『本当に、心から、ごめんなさいっ……!』

 この想いだけは伝えたかった。この断絶は麗香さんの所為ではなくわたしの所為だから。

『青島麗香は、青島渚は、青島遙は、青島健吾は、みんな羽藤柚明のたいせつな人です』

『私は、こういう姉か妹が欲しかった…!』

 気がつくと、こうべを垂れたわたしは麗香さんの細い両腕で、胸に抱き寄せられていた。

 上げて頂けた青島さんの家のリビングで。

『訊いて宜しいですか?』『ええ、どうぞ』

『先日寒空の中、外に幼子を出したのは、麗香さんですね?』『……ええ、そうよ……』

 テーブルの上で両手を伸ばして握り締め、

『それは2人を、渚ちゃんと遙ちゃんを健吾さんの拳や蹴りから遠ざけ守る為ですね?』

『柚明ちゃん……貴女、分っていたの…!』

 家の中でテーブルをひっくり返し物を投げ、幼子や麗香さんに手を上げたのは健吾さん
だ。きっかけは、些細な事だった。暴れ出す痛憤は健吾さんの内に満ちていた。活火山は
僅かな衝撃が噴火を招く。麗香さんは健吾さんの加減した蹴りや拳でも、尚幼子には危う
いと。

 あれは避難だった。外は小雨が降り続き肌寒かったけど、彼が静まる迄暫く我慢してと。
幼子達は充分な説明が為されず、閉め出されたという想いと寒さで、泣き叫んでいたけど。
麗香さんは、賢く強く優しい二児の母だった。

『分った事を、上手に伝える事が出来なくてごめんなさい。渚ちゃんと遙ちゃんの濡れて
震えて泣き叫ぶ様を前にして、冷静さを保てず想いを整理できなくて。わたしが分るだけ
じゃなく、分っていると相手に伝える事が大事だったのに。本当にわたしは未熟です…』

『どうやって分って貰おうかと想っていた』

 相談して何とかなる様な事でもないから。
 貴女に助力を願える様な事でもないから。

『こんなに柔らかで華奢なのに。小柄なのに。彼の言う事は今迄正しかったけど、貴女だ
けは今尚信じられないわ。達人級に強いなんて。私に見る目がない事は分っているけど、
幾ら見ても話しても……抱き留めても、感じ取れるのは優しさと柔らかさだけ。綺麗すぎ
て嘘みたい。嬉しすぎて、私涙が止まらない…』

 そこでわたしは健吾さんの深い絶望を知る。

『暴走族への過剰な乱暴だって、彼の勤めていた署がマスコミに叩かれたの。それ迄暴走
族対策が甘いと書き立てた報道記者が、いざ厳重取締に転じると、今度はペンを逆さまに。

 地域住民の不安の声に、上司の徹底的にやれとの指示に、彼は誠実に応えただけなのに。
彼だけじゃない。多くの署員が危険を怖れず立ち向かったのに。やりすぎはあったかも知
れないけど、ケガさせたかも知れないけど』

 殴り掛ってくる相手に、説諭だけで済ませられる筈もない。麗香さんを通じ、麗香さん
に触れて語りかけた健吾さんの怖れが視えた。剛胆で強靱な彼でも危険を感じる程の情景
が。

 でも報道には幾つかの思惑が常に加わる。
 真実真理ばかりが報道される訳ではない。
 報道機関も、実は民間の営利企業なのだ。

『大々的な非難の前に弁明は聞き入れられず、【政治的判断】で署全体がマスコミに頭を
下げる事になったの。幹部も一線の警官も処分される事になって。減給や戒告や、免職
や』

 健吾さんが不納得だった背景が理解できた。
 正義が否定された様に想えても無理はない。

『それで、健吾さんは警察官を?』『ええ』

 反省の証に署は誰かを辞めさせねばならず。その頃マスコミは、暴行被害者の少女と結
婚した彼の来歴を追及し始めて。見るからに体育会系の彼は、暴走族虐待の容疑者扱いさ
れ、事件被害者を手込めにしたと嘘の報道されて。私の否定の証言は遂に載らず、彼は辞
職する事に。仲間も上司も彼が悪くないと分るから、警備員の職を紹介してくれて、この
経観塚へ。

『私の所為なの。私が彼に縋って、彼の優しさや勇気に頼って愛を望んだから。彼は警察
にいられなくなった。誇りある職だったのに。心から喜んで望んで勤めていたのに。その
未来をこの私が奪ってしまった。この私が…』

『私に彼は救えない。でも今彼を捨てて逃げ去る事は出来ないの。私の所為で、私や渚や
遙の為に、この山奥で警備の職に就いてくれた彼を、ここで見捨てる事は出来ないの!』

 麗香さんは、誰にも打ち明けられない苦悩に心を軋ませて。わたしに出来るのは、肌身
を重ね涙を解き放ち心を安んじる位しかなく。でもこの抱擁と充足が直後の急転を呼び招
く。

『うわああああん!』『おとぉさあぁん!』
『貴男、何がどうなって?』『うるさい!』

 盛りつけられた夕食の皿をひっくり返して。
 花瓶を壁に叩き付けテーブルクロスを破り。

『おかぁさんをぶたないで』『叩かないで』
『そう言う事か。お前、そう言う事なのか』

 健吾さんは誤解していた。この飾り付けを、家の中の整理を見て。麗香さんが日々に前
向きな事を。誰かに逢う事を心待ちにする様を。

『お前、一体誰を家に上げているんだ…!』
『誰って、貴男、一体何を言って、いっ!』

『俺が仕事で居ない間に、どこの男と浮気に熱入れあげているのかと、訊いているんだ』

 健吾さんは室内の精力的な整頓を、浮気相手を招く為と誤解して。愛人が出来た為と誤
解して。彼女1人では為せない部屋の片付けの早さや重い植木の動かしを、その証拠だと。

『信じていたのに。お前はどんな事があっても俺から離れないと、信じていたのにっ!』

『どこの男だ。どんな男だ。俺が話をつけてきてやる。俺がぶちのめしてきてやる。許さ
ない。俺の麗香を惑わす奴は、俺の愛した妻に罪を教える奴は、俺のこの手でぶっ潰す』

 急遽駆け戻ったわたしは必死に首を挟め。

『麗香さんを叩くのは止めて下さい。麗香さんの代りにわたしが答えます。健吾さんの問
にはわたしが答えます。どうかこれ以上…』

 健吾さんは、疑いを心に抱いている。あると決めて掛っている。ないと信じさせるのは
至難の業だ。麗香さんの潔白が事実でも、届かせ方を考えなければ、今の彼には響かない。

『その人は麗香さんを愛しています。健吾さんから奪う積りはありませんが、誤解を受け
る行動はしました。今は深く反省し、健吾さんと麗香さんの幸せを心から願っています』

『その償いに、今から健吾さんの憤りを全て受ける積りでいます。その拳も蹴りも麗香さ
んには向けないで。麗香さんに罪はないの』

『どうか今この瞬間から、その憤りの全てはわたしに向けて下さい。麗香さんにも幼子達
にも罪はありません。咎人はわたしです…』

 羽藤柚明が、青島麗香の愛人でした。

 わたしは硬直した健吾さんを前に、同じく硬直した麗香さんの双眸を見据え、その美貌
に向けて顔を近づけ、柔らかな唇に唇を重ね。

 わたしは人妻を夫の前で奪い取って。

 憤激した健吾さんに、その場で武道の立ち合いに応じる事を強いられ。沢尻君や北野君
を、諍いに巻き込んでしまったのは失態です。

『憤りに心が燃えている様だな』『いいえ』

 返事に健吾さんの双眸が訝しむ様に細く、

『彼氏を傷つけた俺が、憎くはないのか?』
『彼を巻き込んでしまったのはわたしです』

 わたしの戦いは報復の為じゃない。憎しみを晴らす為に立ち合う訳じゃない。健吾さん
の想いを受けて、わたしの想いを伝える為に。たいせつな人の体を守り心を守り、不安や
哀しみや心細さからも守る為に。想いを通わせ合う為にこそ。わたしは常に、全身全霊を
…。

 わたしは、彼の痛撃を堪えて反撃に転じ。

『甘いな……どうして頭から落さなかった』

 投げ飛ばした程度で勝った積りか。続けて関節を極めるか急所に蹴りでも入れなければ。
俺が敗北を認めない限り、勝敗はまだ未決だ。

『わたしの目的は勝利ではありません。それに気を失わせてしまっては、健吾さんがとて
も大切な物を見逃してしまいます』『ん?』

『あなたが苦戦しても痛んでも、仮に敗れても決して見放さず、守り支えてくれる人を』

 健吾さんは強いから、中々こうして倒れないから。だからこの様に心配される事もない。
強靱な人が病に罹りにくく、薬や医師に馴染みが薄い様に。でもそれは、決して心配され
てない訳じゃなく。愛されてない訳じゃなく。

 気付いていないだけで、あなたはいつも。

『ずっと愛に包まれていた。あなたが守り支えた家族は、同時にあなたを守り支えていた。
あなたを心から、たいせつに想っていた…』

 健吾さんの右手に取り縋る麗香さんに、その腹筋に寄り添う渚ちゃんと遙ちゃんに、視
線を移し。健吾さんは暫く眼見開いて瞬かず。

『憤りを拳に込めたい時は、わたしに下さい。わたしは麗香さんと違う形で受け止められ
る。だからどうかもう、たいせつに想い合う者同士で痛めつけ合うのは止めて。人生を分
ち合ってくれる愛しい人を、哀しませないで…』

 渚ちゃんと遙ちゃんには父母が揃っている。わたしが最早手に入れられぬたいせつな物
を。4人は互いを想い合っている。なのにその表し方が拙いだけで涙や叫びを生むのは可
哀相。家族の悲痛に心を痛める、麗香さんが可哀相。拳を振るった後の健吾さんの虚しさ
が可哀相。

 気付いて欲しかったの。身の回りに充ち満ちた幸せを。無造作にある溢れる程の喜びを。

 この日のわたしの戦いは想いを届ける為に。

『青島麗香は、青島渚は、青島遙は、青島健吾は、みんな羽藤柚明のたいせつな人だから。
毎日微笑んで過ごして欲しい愛しい人だから。

 傷つけて、痛い想いさせてごめんなさい』

 健吾さんはそこで漸く我に返った表情に。

『……満たされたよ。中学生に、この俺が』

『俺には未だ、一番大事な物が残されていた。失った物は多くても、納得行かない事は多
くても、未だ守らなきゃならない物が確かに』

『失った物に心囚われ、今目の前の一番たいせつな物に愛を伝えられず、愛されている事
にも気付けずに。俺が、大馬鹿者だった…』

 人には時に、傷つけ合わねば確かめられない想い・呑み込めず信じられない想いもある。


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


 翌日わたしは正樹さんに付き添って貰って。

 改めて青島さん夫妻を訪れて心から謝ると。
 健吾さんも麗香さんも寛大に許してくれて。

 本日は青島さん一家を羽様へとご招待です。

 お屋敷で笑子おばあさんを初めとする羽藤の大人に、正座で対した健吾さん麗香さんは。
幼子の親としてのご挨拶もそこそこに改まり。

「お嬢さんに酷い事をして、申し訳ない…」

 わたしが正樹さんと共に青島さん宅を訪れ。麗香さんと唇重ねた事や、健吾さんを打ち
倒した事を謝ったのと同様に。麗香さんがわたしと唇を重ねた事や、健吾さんが武道の立
ち合いを強いた事に頭を下げ。わたしは2人が謝る必要等ないと想うけど。起点はわたし
の方にあり、謝るならわたしの方だと想うけど。

「経緯はどうあれ、中学生の女の子の唇を奪って、武道の立ち合いを強いた。それは大人
である我々の過ちです。許して頂きたい…」

 責任感の強い人だから、その結果に謝らねば気が済まないと。本日の来訪もこの謝罪の
為という側面があって。笑子おばあさんも正樹さんも真弓さんも、事情は全て分っている。

 笑子おばあさんが、改めてわたしを見つめ。
 良いんだねとの問に、迷わず頷きを返すと。
 穏やかな笑みを保った侭、謝罪を受け容れ。

 大人のけじめが付いた処で、幼子が黙っていられなくなり。頭数がいつもの倍なので賑
やかさも倍に増し。幼子4人は縁側から中庭に飛び出して。わたしも外へ引っ張り出され。

 縁側では笑子おばあさんを中心に大人達が、子育てや経観塚についての話しに花を咲か
せ。麗香さんが、母親の苦労について笑子おばあさんや真弓さんと、話しが合っているみ
たい。

 正午近く迄振り回され、昼食後幼子がお昼寝する頃合を見計らって。健吾さん所望の武
道の立ち合いに応じる。蟠りは消失したけど、彼は武道の修練に、わたしが対応できると
知って。羽様の大人の了承を得た上で対戦を望み。わたしも『受け止めます』と約束した
し。

「その代り、正式な空手を教えて下さい…」

 武道を正式に修めた人に教わる貴重な場だ。真弓さんとサクヤさん以外、教わる師匠も
いなかったので。健吾さんなら男性特有の打たれ強さや筋力や体重の違いも、実地で学べ
る。

 敢て胴着を身につけず、中学校のセーラー服で修練を望むのも、平時の戦いを意識して。
普段着は穴を空けたり擦りむくと、替えが利かないし。制服は買い足せば数は補えるから。

 健吾さんも最初は怪訝そうな顔だったけど、修練の目的を話すと理解してくれた。わた
しの戦いは、大会での優勝やプロ競技者としての成功や、武道を極める為に為すのではな
い。

「本当に、君らしい考えだ。良いだろう…」

 わたしの護身の技は、町中で平時に脅威に遭う事を想定している。買い物や遊びに出た
先で、幼い双子が犯罪者や鬼に襲われた時も。いつでもどこでも即応できる様に。鬼を討
ちに武装して出向く千羽妙見流とは目的が違う。わたしが真弓さんに学べるのは、格闘の
基礎や戦いに臨む気構え等の基本だけ。羽藤柚明の資質で、鬼切りの業の習得が至難な以
上に。

「雨か。激しくなりそうだが、どうする?」

 経観塚の激しい通り雨を前に、彼はわたしを気遣って。泥で汚れたり雨で体が冷えたり、
服が濡れて動きが鈍る為に、わたしが雨中の修練や立ち合いを、厭うかも知れぬと慮って。

 問われてわたしは、迷わず雨の中庭に歩み出て。共に濡れつつ彼に正対し微笑みかける
所作で答に代え。麗香さんや正樹さんは心配そうな様子だけど、止める者はおらず。健吾
さんは一瞬驚きを見せてから、精悍な笑みに。

「なる程。俺を打ち倒せたのも理解できた」

 最近は剣道もフェンシングも、冷暖房完備な道場や体育館での室内競技になって、物足
りなくて。状況次第で大きな体も長い剣も不利になる、何でもありの実戦で。武道の真価
は発揮され、本当の強さが量られる。だから。

「その立ち位置にいてくれる君が嬉しい…」

 わたしは既に冬の日も、雪や寒気や夕闇で修練を為している。雨の日も風の日も。鬼や
犯罪者がたいせつな人を襲う際に、季候温暖な晴れた日の昼間を選んでくれる保証はない。

 場所も最近は近くの河原や浅瀬に入ったり、森や麓の藪でも。敵が襲ってくる際に、見
通しの良い平らな処を選んでくれる保証はない。様々な状況に対応できなければ。健吾さ
んと為す今の修練や立ち合いは、中庭限定だけど。

「では、基本的な動きから……既に他流で達人の域にある君だ。憶えるのにも長く掛らな
いかも知れないな」「宜しくお願いします」

 空手の動きを教えて貰い。重心の取り方や力の入れ方・抜き方や、体捌きや蹴りや突き
の出し方を。今のわたしは贄の力の修練の副次効果で、感覚やコツを掴み易くなっている。

 相手が言いたい事・伝えたい中身が掴める。言葉にならない感覚や印象が、声音や顔色
や言葉や手足の振り等で読み取れる。師が伝えようとしているなら、弟子が望めば分る物
か。

「こう、ですか?」「そう、その通りだ…」

 相手の意図や思考を探れば、答を覗くカンニングだけど。自制すると言うより探る必要
を感じない。テストでも授業でもそうだけど、先生は答に至る方法を教えて問を出す。笑
子おばあさんや真弓さんは手本を示してくれる。

 それ迄何度も聞き返し見つめ返し、試行錯誤せねば分らなかった話が。呑み込み易くな
り、一度で分る様になり、話される途中で結論が見える様になり、聞く前に分る様になり。

「こう、ですね?」「コツ掴むのが早いな」

 手習いの多くはテスト問題と違い、常に定まった答がある訳ではない。生き物の様に状
況が変れば最良の答も微妙に違う。それでも基本やお手本と言う物はあるし、教える側が
抱く最良な形の像がある。正しい答の一つが。

 言葉に出し難い微妙な感触や違いを悟れば、進歩も習熟も早く確かになる。武道の修練
もそれに同じ。臨機応変・自由自在に、でも正答を出さねば即行き詰まる。まず師が思い
描く理想を己に憶え込ませ。基本をたいせつに。

「如何です?」「短時間でここ迄至るとは」

 健吾さんは丁寧に教えてくれるので。腕力の有無や手足の長さで、及ばぬ処は別として。

「彼女は既に黒帯に相応する。他流で達人の域にあるとはいえ、何という憶えの早さだ」

「健吾さんの教え方が巧みなお陰です……」

 雨の中、彼が所望の武道の立ち合いに応え。先日の経緯から、殺気はないけど彼は闘志
に満ち満ちて、手加減抜きに全力の拳と蹴りを。何度か腹や顔に痛撃も貰い、麗香さんや
正樹さんの気を揉ませたけど。今のわたしは健吾さんの必殺の一撃でも気絶せず、戦闘不
能にも陥らない。わたしの戦いの想定は鬼を含む。

「柚明ちゃんっ!」「大丈夫よ、麗香さん」
「でも真弓さん、女の子の顔に」「見て…」

 僅かに体をずらし、打点や当たるタイミングを変えて痛手を減じている。気合と痛みへ
の耐性で堪え。達人の正拳や蹴りを受けても、目も鼻も潰れてない。大丈夫、見えて分る
筈。

 女の子の事情より、視界に響く目や、呼吸に響く鼻や口、平衡感覚を司る三半規管に響
く耳や頬への打撃は、極力減じる。顔面が腫れて血塗れな展開は、実戦では負けに近しい。

 無尽の体力と打たれ強さを持つ健吾さんは、体力や耐久力続く限り戦いを望み。わたし
も真弓さんサクヤさんに鍛えられたから、容易に崩れず。お互い汗だくになり、一休みし
た頃に幼子達が起きてきて、おやつの時を悟る。


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


「今日はここ迄にしておこうか」「はい…」

 健吾さんに与える痛手は、贄の癒しが不要な位に抑えた。多少流し込むけど、長く肌を
合わせると麗香さんの不安を招く。癒しの力の所在を悟られぬ様に。これも一つの修練だ。

 事情を知らない他人を家庭に招き入れても、贄の血の事情も力も隠して気付かれない様
に。それは羽藤家と言うより、羽藤柚明の修練で。笑子おばあさんも正樹さんもその様に
過ごして今に至っている。経験不足なのはわたしだ。

 懐いてくれる幼子を、真弓さん麗香さんに委ね。お風呂で汗を流して出てくると、正樹
さんが幼子に弄ばれていた。笑子おばあさんが麗香さんに裁縫を教える脇に、首を挟める。

 正樹さんが疲れ果てた頃、おばあさんとわたしと麗香さんの、お料理修練を兼ねたお夕
飯作りが始る。正樹さんがお風呂で汗を流す間、真弓さんが健吾さんと武道の立ち合いを。

 見る事は出来ないけど、わたしは関知や感応で視る事が出来る。健吾さんはさっきの奮
闘から短時間なのに、回復力が凄い。でも真弓さんの強さは、無手でもずば抜けていて…。

 健吾さんがお風呂で汗を流し終えた頃にお夕飯が出来。食卓は普段にも増して賑やかで。
真弓さんが皿洗いする間、わたしは幼子の入浴を任され。全員一緒は無理なので2人ずつ。
たいせつな人と素肌を重ね合うのも幸せです。

「ごめんなさいね、渚と遥のお風呂までも」
「お気になさらず。わたしも楽しいので…」

 入浴終えた渚ちゃん白花ちゃんを、受け取りに脱衣所迄きてくれた麗香さんに引き渡し。
その足下には次の順を待ちかねて、桂ちゃんと遥ちゃんが顔を覗かせ。ほんのり頬が染ま
るのはお風呂の熱で、麗香さんに素肌を見られた恥じらいではない積りです。多分きっと。

 幼子は風呂上がりでも元気で、お酒を交えた大人の話しの傍で踊って笑い。健吾さんも
酒豪だけど、真弓さんには敵わなかった様だ。わたしは幼子を寝付かせに、左右に2人ず
つ幼子を引き連れて、布団で絵本を読み聞かせ。

 麗香さんも健吾さんも、心地良い疲れで早めに就寝し。麗香さんは主婦や母の目標像を、
真弓さんやおばあさんに見た様で。健吾さんもわたしや真弓さんとの立ち合いに満足し…。

 麗香さん達は翌朝も、客人と言うよりむしろ家族の様に、朝ご飯や散歩や修練や語らい
に様々に動き。お昼ご飯後、幼子の瞼が重くなった頃合に、健吾さんが撤収の潮時を察し。

 ありがとうと心底嬉しそうに言われたけど、それはわたしの台詞です。麗香さんもこの
身を抱いて頬を重ねてくれて。名残惜しいのは、幼子よりむしろ麗香さんだったかも知れ
ない。

「今度は私達の家にも来て頂戴。お願いね」


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


 翌週末はそのお礼にと、羽藤家が青島家へお泊りに招かれて。でも羽様では笑子おばあ
さんが体調を崩し、サクヤさんの帰郷も視えたので。わたし1人がお泊りさせて頂く事に。

 わたしもサクヤさんと過ごしたく想うけど、今回の滞在はオハシラ様のお祭り迄で、期
間も結構長くなる。わたしはもうすぐ夏休みに入るから、サクヤさんと心ゆく迄寄り添え
る。

 放課後に商店街で逢った時も麗香さんは、

「屋内や庭で武道は無理だから。今回は渚や遙や私に、色々みっちりと応えて貰うわよ」

「ふつつか者ですが、宜しくお願いします」

 素直に柔らかに一礼すると、美しい人は、

「何かこの歳でお姑になった気分ねぇ。確かに料理も裁縫も、貴女の方が巧いけど。私も
現役の主婦よ。中学生に負けてはいられない。今週末を見てなさい。思い知らせてあげ
る」

 そうして迎えた週末だけど、健吾さんに職場の緊急招集が掛り。丁度放課後、青島さん
宅を訪れた時に彼とすれ違いに。わたしの来訪に合わせて休みを取ったのに、一緒出来な
いと謝られ。わたしは慌てて謝る必要は何もないと応え。大事なお仕事なら誰も悪くない。

「近隣町村で先月から窃盗が頻発していてね。事件現場が徐々に経観塚に近付いて来てい
て、今週は危ないかも知れないと……郷土資料館や役場の警備を、増強する事になったん
だ」

「気をつけて下さいね、あなた」「大丈夫」

 健吾さんは麗香さんの頬に軽く手を添え。

「警備員は犯罪者を捕まえる仕事じゃない。
 警備の増強を感じて窃盗犯が諦め、何もないのが最良だ。入られたとしても警察への通
報が第一で、追跡して捕まえる任務ではない。無理はしないから安心して待って居て良
い」

 健吾さんは麗香さんに、夜は家の鍵をしっかり掛ける様に注意を促し。窃盗犯が民家を
狙う怖れもある。青島さん宅は会社の借上げた社宅と言っても、かなり立派な一軒家だし。

「渚と遥を頼む。それに、羽藤さんも……」

 今宵は緊急だけど、夜警もこなす健吾さんの家は、麗香さんと幼子だけの夜も結構ある
らしく。執筆業の正樹さんは夜も羽様のお屋敷にいるし、亡くなったお父さんも夜勤は基
本なかったから。この感覚は少し珍しかった。

「大丈夫よ柚明ちゃん。鍵を掛けておけば」

 泥棒も入り込めない。麗香さんは幼子や年少のわたしを前にして、明るく応対してくれ
るけど。不安や怖れを必死に抑え。なのでその努力を無にする応対はせず、むしろその不
安を抱き留める感じで身を添わせ、心を暖め。

「はい。麗香さんがいてくれれば大丈夫…」

 幼子にも不安を与えない様に。麗香さんの宿す微かな怯えを打ち消す様に。わたしも幼
子に肌身を添わせて身に抱き。麗香さんにも幼子にも、特段哀しみや痛みの影は視えない。
それは健吾さんにも大事ないと示すのだろう。


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


 麗香さんはお夕飯の食材も買っていたので。幼子を見守りつつお茶を一緒して近況を伺
い。彼女の右膝の擦り傷は、夫婦で室内を模様替えした際に転んで傷めた物で。絨毯や壁
紙を変えた以上に、住まう人の心境の変化が空気を変えていた。健吾さんの悲憤の根は拭
えてないけど、夫妻は互いを想う気持を確かめて。

「そろそろ夕ご飯時ね」「お手伝いします」

 わたしは高級なお客様ではないので。一緒に頂く夕食を、一緒に手がける厨房も楽しい。
食卓で健吾さんの席に座すのは躊躇ったけど。

「良いのですか? 空いていると言っても健吾さんの席を……」
「私の惚れた人の席だから、貴女にも資格ありなのよ。柚明ちゃん」

 麗香さんは躊躇いなく笑顔で着座を勧めてくれるので。健吾さんの不在な一夜、愛しい
麗香さんと幼子を守る想いを込めて、非礼は承知で一家の大黒柱の席に座し。その代り今
宵は実際の脅威は勿論のこと、麗香さん渚ちゃん遥ちゃんを、不安や怯えからも隔て守る。

 幼子の賑やかな夕食の後、麗香さんと一緒に皿洗いして。幼子2人のお風呂なのだけど。

「全員一緒?」「ウチの風呂は大きいから」

 確かに青島家の浴室は、洗い場も湯船も通常の倍位に広く。詩織さんや和泉さん南さん
宅のお風呂も入ったけど。4人同時に洗い場に座れ、同時に湯に浸かれる広さは特筆物だ。

「男の子とのお風呂になってしまうけど…」

 良いわよね? そう尋ねられて初めてわたしも、渚ちゃん遥ちゃんが幼子とは言え男の
子である事を思い返し。女の子及び女性とは、何度も一緒にお風呂に入って慣れっこだけ
ど。

 男の子及び男性との入浴は、幼い頃にお父さんや正樹さんと入った位で。最近は正樹さ
んもわたしを気遣って、一緒してくれないし。でもそう言えば、白花ちゃんは男の子だっ
た。

 そう思い返したのは。了承の頷きを返し終えて、脱衣所で一緒に服を脱いで下着姿にな
り。見事な裸身を晒した麗香さんが、遥ちゃんの脱衣を手伝う前で。わたしも渚ちゃんの
脱衣を手伝い、すっぽんぽんにさせた頃合で。

 男の子でも幼子は素肌柔らかくて暖かく。
 瞳も頬も辿々しい歩みも動きも愛らしく。

 好んで肌身に抱き留めると、喜んで身を添わせてくれて。幼子は父母以外とお風呂を一
緒した経験が少なくて、わたしに興味津々で。羽様でお風呂一緒した時は、わたしより年
齢が近しい双子が居た上に、五右衛門風呂という物を前にして、そちらに焦点が向いてい
た。

 今回は幼い兄弟も馴れた自宅の浴室で、いつもの通り麗香さんがいて。違うのは健吾さ
んが不在で、代りにわたしが一緒した事位か。だからその相違が注目されるのは至当な処
で。

 麗香さんより圧倒的に小さい胸の膨らみを。
 興味深そうに柔らかな手でピタピタ触られ。

 羽様でもお風呂で胸に頬を抱き留めたから。
 わたしも今更悲鳴上げて拒む事はないけど。

 恥じらいに反射で身を捩りたい衝動は抑え。
 無心に手を伸ばす幼子を受け容れて愛しみ。

「渚も遥も一応男の子だから、女の子は若い方が好みかしらねぇ」「麗香さんだって充分
すぎる程若いです。それに胸も大きいし…」

「私は柚明ちゃんの様に控えめな胸も好きよ。もう少しあればとも思うけど、貴女は未だ
成長期。気長に待ちながら、愉しみましょう」

 お風呂の後は更に幼子のお相手を。麗香さんは幼子の元気に追いつかない時もある様で。
今宵わたしが居る事で助かると言ってくれて。

 幼子に絵本を読んで寝付かせて。ほっと一息ついた処で、わたしと麗香さんの夜が始る。


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


 天気は夕刻から崩れたけど、夜半に雨風は弱まって。幼子が起き出す事もなく。でも健
吾さん不在の原因たる連続窃盗は、健吾さんの不在その物と共に、麗香さんに影を落して。

「健吾さんは強い人……きっと大丈夫です」

 寝間着姿で寝室で、肌身添わす事を望む麗香さんを受け止めて。心を安んじ落ち着かせ。
彼女自身の不安も口に出させず、同時に鎮め。

 わたしに筋肉質な健吾さんの、力強い印象の代替は叶わないけど。硬く躍動する肉体で、
安心を実感させる事は叶わないけど。柔らかな女の子の感触でも、強く肌身を添わせれば。

 その背を強めに抱き寄せて、大きな2つの膨らみに潰されつつ、親愛を伝えるわたしに。
麗香さんもこの背に両腕を回し、強く肌身を重ねてくれたのは嬉しかったけど。次の瞬間、

「んんっ、れいかふぁん……?」「ちゅっ」

 視線も頬も間近だったけど。まさか正面から唇を重ね合わせる事になろうとは。人妻に。

 健吾さんとこの家で武道の立ち合いをしたあの日も、この美しい女性と唇を重ねたけど。
肌身を添わせ強く抱き締め合った末に、心を繋げたけど。この小さな胸に愛しい両頬を受
け容れ、肩を背を抱いて愛しみを伝えたけど。

「可愛いわ。やっぱり貴女は私のいもうと」

 愛してあげると、唇を唇で塞がれ。わたしの意図を押し切って、彼女は答を訊かせてと。

 わたしは動揺以上に、女性に力づくで抗う事が出来ず。背も高く手足も長く、胸もお尻
も大きな麗香さんが、中学生を組み敷く絵図は自然だけど。わたしはその強い想いを肌身
に感じて身動き取れず。彼女は断固拒否ではないわたしの応対を、受容と取って嬉しそう。

「け、健吾さんに怒られます。謝ったのに」

 幼子は寝付いて起きて来ず、見られる怖れはないけど。女性同士である事より。人妻で
ある麗香さんをわたしが寝取るのは、不倫になる以上に。健吾さんの怒りより悲哀が怖い。

 先日わたしが肌身合わせたのは、麗香さんの誰にも打ち明けられない悲嘆が溢れそうで、
他に心を解き放つ術がなかったからで。唇を重ねたのは、麗香さんに抱く健吾さんの疑い、
男性との浮気がないと分らせる為で。愛しい人だけど、人妻を奪う行いは健吾さんへの裏
切りで、家族4人の幸せを壊す。そうならない様に、正樹さんと謝罪にここを訪れたのに。

「大丈夫よ、健吾は貴女との仲を許してくれたから」
「それは、もうしませんと言う前提で謝ったから、過去を許してくれただけで」

 麗香さんは、怯みと惑いで拒みきれないわたしの消極的な抗いを排し。パジャマの腹か
ら手を入れて脱がせつつ、このブラジャーも外しに掛り。両の胸を撫でさするのは、揉む
と大きくなると言う説を信じての実行なのか。

「そうじゃない。健吾は私に貴女となら仕方ないと言った。認めたの。彼には私の男との
浮気は悪夢だけど、女の子との絆は許容範囲。あの夜の憤激は諸々の鬱憤の所為で、貴女
のキスの所為じゃない。あの夜の健吾の憤激は、貴女をかねてから所望していた武道の立
ち合いに、応じさせる為の口実だったと思う…」

 脱がされかけのパジャマが顔に掛って視界を鎖し両手を塞ぐ。組み敷かれても、敢てそ
の状態を外さず困惑し続けるわたしを分って、年上女性は遮る物のない両乳房を揉み。抑
えた侭その先端に唇で触れ、軽く歯で挟み込み。思わず仰け反りそうになる体を抑え込む
けど。

「健吾がいれば別の機会迄取って置く積りだったけど。こうして2人の夜を迎えたのは」

 私と貴女が愛を交わすべき定めと言うこと。
 麗香さんは一度身を離して自身も服を脱ぎ。

「健吾を退ける技量を持つ貴女が、ここ迄されて抗いもしないのは、貴女も私を嫌っては
いないと言う事でしょう、柚明ちゃんっ?」

「そう、ですけど。麗香さんは綺麗で豊満で守り支えたいたいせつな人ですけど、でも」

「でも、は要らないわ。私が今欲しいのは貴女の気持と体なの。世間体や建前に縛られる
のは、他人の目や耳のある昼間だけで充分」

 麗香さんの欲求は今迄になく強く押し寄せ。
 わたしが拒めぬ様に主導したい想いを宿し。

 そこで漸くわたしは麗香さんの、女の子を愛せる性向が、無自覚に漏れ出て、彼女の学
生時代の苛めを招いたと、遅まきながら悟り。麗香さんは何も悪くない。何も悪くないけ
ど。

 彼女は自覚して女の子を好いた訳ではない。
 今迄も女の子と恋や愛を交わした事はなく。

 わたしが初めてだから。彼女に若干の後ろめたさと拒絶への怯えが潜み、強引な展開に
なった。健吾さんと結ばれ子供を為した今に不満な訳でもない。唯、女の子を好く事も出
来る素養が、学生だった頃にも、そうでない人と僅かに違う応対となって現れ。子供の苛
めとは、少しの違いを嗅ぎ付けて生じる物だ。

 女の子に見とれたり、触り合いを望んだり。頬染めたり恥じらったりする反応の微かな
相違。麗香さんも無自覚なら、苛めた側もきっとそれを説明できないだろう。唯何か違う
と。それは色の濃淡を見分ける様に微妙な領域だ。

『拒めない。麗香さんは、初めて自覚して女の子への恋や愛を表に出した。本人も戸惑い
混乱し掛っている。力や技で拒んでは、拒まれた事が麗香さんの心の傷になってしまう』

 無自覚な事が、吉凶何れに振れたかは分らない。麗香さんは数年苛めを受け続け、辛い
想いを経たけど。その苛めから助けてくれた健吾さんを、初めて強く愛して結果結ばれた。

 近日の経緯で麗香さんは、わたしとも強く心を繋ぎ。眠らせていた素養に目覚めた様で。
子供を2人産んだ麗香さんは、性愛にも通じ。一級上の聡美先輩に『おままごと』と言わ
れた中学3年生のわたしでは、弄ばれる一方に。

「れ、麗香さん。そこ、ちょっと待って…」

「……ふふっ、可愛いわね。私の夫を打ち倒せる技量を持って、生意気な迄に思慮深く優
しいのに。こっちの方はまだまだ子供。漸く私も分ったわ。私は貴女の様な姉か妹が欲し
かったの……柚明ちゃんの様ないもうとが」

 昼の間は全ての面でやられっ放しの貴女に。
 夜になればやりたい放題好き放題って素敵。

「もっと愛させて、そして愛を返して頂戴」

 私を嫌ってないのでしょう? と問われて。
 わたしは麗香さんは愛しい人と確かに答え。

 健吾さんは、麗香さんの想像以上に彼女を分っていた。こうなる事も覚悟して、麗香さ
んの真意も承知で、健吾さんは羽藤家と、羽藤柚明と絆を繋ぎ直すと決し。愛妻の望みを
自身の望みとして、女の子相手なら許容範囲と割り切って。本当に心優しく強く愛の深い。

 わたしは健吾さんの、心優しさ強さ懐の深さに甘えつつ。麗香さんに主導され、女の子
同士と言うより、大人の女同士の愛の営みを。

 幼子を起こさぬ様に、微かな吐息を漏らしつつ。衣擦れの音も立てぬ様に潜めた所作を。
わたしが突如中断したのは拾数分の後だった。


− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −


「……」「……柚明ちゃん、どうしたの?」

 わたしが急に我に返り、麗香さん以外の周囲に気を配り始めたと。肌身に悟れて麗香さ
んは、不満と言うよりなぜという不審を声に。

「未だ私は愛し足りないし、未だ貴女に愛され足りないわ。いもうと」「ごめんなさい」

 わたしは目の前の愛しい女性に視線を戻し。
 でも繋げた肌身は手で軽く押してやや離し。

 そこで漸く麗香さんはわたしの意図を悟り。
 でも今更なぜ拒むのと首を傾げるより早く。

「誰かが家の中に入ってきています。居間の窓ガラスを、鍵の部分だけ、上手に音を立て
ない様に割って鍵を開け。既に数人室内に」

 愛を交わし合い火照って汗ばみ、ふやけていた麗香さんの素肌が急に緊張し。心に兆す
のは連続窃盗犯の脅威か。非常事態に心乱れる愛しい女性を、わたしは一度強く抱き留め。

「落ち着いて、声を上げないで。彼らは未だわたし達に気付いていません。息を潜めて」

 わたしが応対します。麗香さんは、ここで渚ちゃんと遥ちゃんを守って。そう告げると、

「柚明ちゃん、まさか強盗を退ける積り?」
「巧く彼らの目を盗んで警察に通報します」

 電話は居間にある。そこ迄行かねば危難を外には伝えられない。彼らは室内を物色しつ
つ寝室へ来る。潜んでいてもやり過ごせない。寝室の窓から裸足で外に逃げる手もあるけ
ど、幼子2人を起こしても眠った侭抱いても、物音一つ立てず窃盗犯に気付かれず、隣家
迄逃げ切れるかどうかは一種の賭だ。それに隣家に禍を、窃盗犯を誘い招く事になりかね
ない。

 急いで下着を身につけて、セーラー服を着るわたしに。麗香さんはやはり普通の女性で、
状況対応が遅れ気味で。現状は危ういとの事実認識迄は来たけど。どうすべきか、何を出
来るか迄思索が至るには、もう少し掛りそう。

 でも犯罪者はこちらの事情を待ちはしない。
 今は麗香さんに服を着る様に行動を促して。

「それでも危険よ。中学生の女の子が……」
「大丈夫です。決して無理はしませんから」

 心配させない為に麗香さんには、警察に通報すると言うけど。通報はするけど。わたし
の真意は侵入者の撃退だ。相手は室内を物色しつつ寝室も探る積りでいる。避けられない。
関知と感応で、彼らの人数も気配も技量も概ね悟れている。今のわたしには無理ではない。

 健吾さんや麗香さん、幼い兄弟や己自身の、悲哀や痛みが関知に視えて来ないのは。わ
たしが今宵ここに泊る事も彼らの侵入も確定で。彼らはわたしが撃退するから。今のわた
しの技量には、それは危難と言う程の事でもない。

「麗香さんは、傍に添って守らなければならない幼子がいます。ここはわたしに任せて」

 物音を出さず潜む様にお願いして。独り寝室の扉を開けて廊下に出る。足音を立てずに
歩みを急がせ。時間を掛けては麗香さんに怖れや不安を与え、心を乱す。速攻で為さねば。

 廊下も居間も厨房も、カーテンが閉じてある以上に外も曇りで、豆電球の微かな光以外
は、闇が支配する夜だけど。わたしは真弓さんとこんな状況も想定し、修練を重ねてきた。

「はぁっ!」「ぶっはっ」「な?」「ん…」

 一人目は不意打ちだ。胃袋を掌打で打ち抜いて気絶させ。今のわたしの掌打は人の内蔵
も破るので、加減して。健吾さんは鍛えられた腹筋で良く堪え、反撃も返してくれたけど。

 他の者も異変を察して尚敵と悟るのが遅い。相手は盗みに慣れていても戦いには不慣れ
だ。ソファを踏み越えて迫った2人目も、手に持つナイフを握り直す間に掌打で喉を打ち
抜き。

 最後の1人は状況を確かめに、懐中電灯を顔に向けて。逆にわたしの姿を見て驚きに硬
直し。無言の侭正面から距離を詰め、左手の懐中電灯を叩き落し。正面に注意を集めつつ、
右上段回し蹴りを左側頭部に当てて気絶させ。

 荷造りロープで彼らを後ろ手に縛り上げて。
 電話の子機を持ち麗香さん達の寝室に戻る。

 中学生が戦いに強いと知れても嬉しくない。
 警備員の妻である麗香さんの功績にしよう。

「全員縛り上げました。警察への通報を…」
「良かった! 大丈夫で、ケガがなくって」

 総身で呼吸が止まる程強く抱き締められて。
 わたしは女性には抗えずその侭押し倒され。

 押し潰されそうな不安や怖れの反動と分るから。わたしを心から案じていたと分るから。
押し寄せる歓喜と感涙に、為される侭に身を添わせ唇を重ね。望まれる侭に欲される侭に
互いの無事を、肉感や体温で肌身に伝え合い。

 縛った窃盗犯を朝迄放置してしまいました。


「柚明前章・番外編・挿話」へ戻る

「アカイイト・柚明の章」へ戻る

トップに戻る