第1回 はじめに




桂「みなさんこんにちは、羽藤桂ですっ」
柚明「皆さんこんにちは、羽藤柚明です」

桂「このコーナーは、アカイイト本編の主人公であるわたし、羽藤桂とぉ……」

柚明「『柚明の章』の主人公であるわたし、羽藤柚明が、2人で司会進行を担い、素敵な
ゲストを交えて、柚明の章についての裏話や補足を語らう箇所として、設置されました」

桂+柚明「「よろしくお願いします」」

桂「上手にごあいさつできたかな? 読者さんに向けたカメラ目線でごあいさつをするの
って、経験がないからとっても緊張するよ」

柚明「可愛くご挨拶できていたと想うわ。緊張しても緊張が抜けても、桂ちゃんは年中い
つでも、この上なく可愛い女の子だから…」

桂「は、恥ずかしいよ、お姉ちゃん……。読者のみなさんがカメラ越しに、今このやり取
りを、見ているかも知れないって言うのに」

柚明「恥じらって頬を赤く染めた桂ちゃんも、とっても可愛いわよ。きっとカメラの向こ
うの読者さん達も、満たされていると想うわ」

桂「ううっ、柚明お姉ちゃんわたしを少し高く評価しすぎ。……嬉し恥ずかし、です…」

柚明「桂ちゃんの可愛らしさは、もっと間近で堪能したいけど、今日は2人きりの場では
ないので。読者の皆さんに補足説明しますね。わたしと桂ちゃんが今居る処は、桂ちゃん
が住んでいるアパートの一室のお茶の間です」

桂「カメラは葛ちゃんがわたし達の安否確認の為に、お家に設置した隠しカメラを使わせ
てもらっているの。お茶の間に座布団を2枚並べて敷いて、ちゃぶ台を前に2人正座して、
壁の中に隠されたカメラに向き合う感じで」

柚明「素敵なゲストを交えて、わたしと桂ちゃんで、本作についての質問に答えたり、伏
線の指摘やお話の繋り、裏情報を解説します。

 作者の久遠長文は、直接は登場しないけど、随所でメモの形でメッセージを寄せてくれ
るので、それも読み上げつつ進行致します…」

桂「直接出てきてはくれないの? 柚明の章は大凡が、柚明お姉ちゃんの視点で進むから、
事情の殆どはお姉ちゃんが知っていて、お姉ちゃんが答えても確かにおかしくはないけど。

 でも『神の視点』は使ってないから、お姉ちゃんも知らない事があるでしょう? お姉
ちゃんも知らない筈の事情や裏設定を明かすのなら、作者さんが出てくればいいのに…」

柚明「作者は作品の外にいてこそ全知全能だけど、作中に出てきても、結局『そう言う名
前の1人の登場人物』になって、作者本人とは似て非なる物になる、と言う考えみたいね。

 元々小心者で、人前に出るのは苦手だって、メモが来ているわ。続けて、解説や裏話・
裏事情を自身で語るのも不得意な上に好まないので、わたしと桂ちゃんにお願いしたい
と」

桂「今迄も作品に伴う解説や裏話、背景説明を余り好んでなかったものね。最近チャット
で質問にリアルタイムで答えたり、作品の補足を始めたり、どういう心境の変化かな?」

柚明「始めたなら、貫徹すべきと言う感じみたい。更にメモは来ているのだけど、これ以
上読み上げるのは後回しにします。もう少し、先に語っておくべき事があるみたいなの
で」

桂「地の文が無くて会話文ばかりだから、いつもとちょっと勝手が違うものね。今回は初
めてだし、前提条件他について、カメラの向うの読者みなさんに伝える方が、優先だね」

柚明「ここに迎える素敵なゲストの方々は、アカイイト本編及び柚明の章に登場した人物
です。わたしが桂ちゃんのアパートでお話ししている事で分る様に、柚明本章終了後が前
提ですので。柚明本章の終了後に、桂ちゃんのアパートを訪ねられる人に限定されます」

桂「ミカゲちゃんや主の分霊は、登場できないって事だよね。お姉ちゃんに退治されちゃ
ったから。……ここに来られても困るけど」

柚明「ここは一種の楽屋裏なので、例え顕れても、即座に桂ちゃんが危うい事はないと思
うけど。でもその方が幸いかも知れないわね。他にも羽様のご神木を離れられない白花ち
ゃんや主本体、柚明本章開始前に亡くなっていた千羽の明良さんや柚明本章中で亡くなっ
ている鹿之川智林教諭等は、登場できません」

桂「ここでは、お父さんやお母さん、笑子おばあちゃんに逢う事は出来ないんだね。ちょ
っと残念かな。……でも、仕方ないよね…」

柚明「ここではない処ででも、いつか機会を設けて貰いましょう。桂ちゃんのお願いなら、
いつか作者も叶えてくれると思うわ」

桂「はい。期待しています。それと次は…」

柚明「登場するゲストの皆さんが、どれ程の情報を知って、お話しに参加してくれるのか、
も説明致しますね。例えばアカイイト本編では、各ルートでのみしか明かされてない事実
があって、他のルートを辿った桂ちゃんには、知りようのない事実・真相もありますけ
ど」

桂「わたしのお母さんが千羽の人で、当代最強の鬼切り役だったとか。白花ちゃんがわた
しの双子のお兄さんだったとか。サクヤさんが観月の一族で山神の眷属で、主本体を倒せ
るラゴウの力を秘めていたって言う事も。柚明お姉ちゃんの真相や、ノゾミちゃんの過去
やミカゲちゃんが主の分霊だった事実も…」

柚明「この場所でのみ、わたしも桂ちゃんもゲストの方々も、アカイイト本編及びファン
ブック等で示された情報の全てを、承知しています。その上で、ここで話した事や報され
た情報は、今後柚明の章で描く人物の動きに、直接影響しないお約束となっています。そ
の意味でも、ここは楽屋裏に近い状態です…」

桂「柚明の章で描かれた事についても、ゲストみんなが知っているって事で良いんだよね。
幾つかの重要事実は、その場に居合わせてなくて、知る事が出来なかった人もいるけど」

柚明「ええ。例えばご神木の鬼神の封じの実情は、柚明の章ではわたし以外に、桂ちゃん
と白花ちゃんとノゾミちゃんしか知らない事になっているけど。ここに登場されるゲスト
の方々は、全員知っている事が前提です」

桂「サクヤさんなんか、怒り狂いそうだね」

柚明「熱くて優しい人だから。わたし迄も大事に想ってくれる事は、嬉しくも有り難いわ。
 唯、ひとしきり怒り終って、やや冷静になってから、登場して頂いていると言う設定で
す。それでも尚憤懣は、残るでしょうけど…。

 サクヤさんに限らず他のゲストの皆さんも、ここを退出する時には、ここで知った事話
した事は、全て忘れていると言うお約束です」

桂「みんなが必要な情報を知っていると言う事で、ここではお話しにズレが生じる心配は
ないし、隠し事に気遣いする必要もないと」

柚明「前もってお話ししておく事は、この位かしら。後はその都度お話しする事にして」

桂「いよいよ本題に入るの? お姉ちゃん」

柚明「そうね。ゲストを交える前に、全体を俯瞰したお話しを少ししておきましょうか」


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2.柚明の章の全体構成

桂「柚明の章は、かなり長いお話しだよね」

柚明「1話当たりの分量も『長すぎて読みにくい』との指摘を受けた程文章量が多いけど。
それ以上にずっと一本道の続き物で、連綿とこの数を描いた久遠長文の執念も、驚きね」

桂「えー、基本的に作者さんの文章量把握は、20字×20行の原稿用紙を想定していま
す。400字詰めの原稿用紙で、柚明前章及びその番外編は200ページ、柚明本章はそ
のほぼ倍、後日譚は100ページ、番外編挿話は50ページとしています……確かに長い
ね」

柚明「1話当たりの文章量も多い上、一連のお話しの数もかなりの物ね。柚明前章が4話、
柚明間章が1話、柚明本章が4話。更に後日譚や前章の番外編、更に番外編の挿話も含め、
現在参拾以上。未だ完結してないから、もっと増えそう。他のアカイイトのSSも、何話
かに分けた物もあるけど、分量だけで言えば群を抜いているわ。初見の人には、取っつき
にくい印象を与えてしまっているかしら?」

桂「最初から読み進むと想うと、少しだけ大変そうだね。1話当たりの分量も多いし…」

柚明「久遠長文は元々、長編指向の人みたい。ここ迄長く多くなるとは想ってなかった様
だけど。作者自身、当初は描き継げる確信がなかったと言う程で。行ける所迄行こう、と
いう感じで手を付けたと、メモにもあるわ…」

桂「柚明前章が、アカイイト本編の直接の原因である『拾年前の事件』に至る迄を描いた
前日譚で。柚明本章が、アカイイト本編を柚明お姉ちゃんの視点から、オリジナル要素も
交えて描いた作品で。柚明間章は、柚明前章と柚明本章を繋ぐお話しと言う事です……」

柚明「柚明前章・番外編は、柚明前章で描ききれなかったエピソードを書いた前日譚の一
部で。柚明本章・番外編・挿話は、番外編でも描ききれなかった小エピソードを拾い上げ
た物、と説明されています。そして後日譚が、柚明の章終了後を描いた作品です」

桂「わたしも知らない柚明お姉ちゃんの幼い頃も書かれているんだね。小学生や中学生の
柚明お姉ちゃんも、強く優しくて可愛いよ」

柚明「そう言って貰えると嬉しいわ、桂ちゃん。でも、幾ら頑張っても、桂ちゃんの可愛
らしさ強さ優しさには、及ばないわね……」

桂「ゆっ、柚明お姉ちゃん。その、正面間近から慈愛を込めた視線で見つめられると、恥
ずかしいよ。わたしがお姉ちゃんを先に見つめたから、お姉ちゃんが向いてくれて目線が
合った訳だけど。澄んだ瞳で見つめてもらえるのは本当嬉しいけど。今はカメラ越しでも
読者みなさんの前な訳ですし、その、あの」

柚明「そうね。ごめんなさい。一生懸命元気に受け答えする桂ちゃんが、余りに可愛くて、
つい心の焦点が逸れてしまって。ここで余り脱線しすぎても、肝心の解説が進まないわね。
脱線は解説の後にじっくりする事にして…」

桂「じっくりするんですか……いえ、それもわたしは心底嬉しいんだけど。あの、その…。
 済みません、1人で頬を赤くしちゃって」

柚明「謝らなくても良いのよ。その可愛らしさも、解説には必要と言うのが作者の判断だ
から。読者の皆さんも、桂ちゃんの自然な可愛らしさを、喜んでくれていると想うわ…」

桂「そう言ってもらえると、素直にうれしいです。これからも、よろしくお願いします」

柚明「こちらこそ、よろしくお願いします。
 各章各話の詳細は後でその都度解説する事にして、ここでは久遠長文がアカイイトのS
S『柚明の章』を執筆する事になった根本の動機について、記す事にしたいと想います」

桂「アカイイトのSSを描く程だから、ゲームをやって感動してくれたのだとは想うけど。
でもその前にもう一つ、作者の言い訳メモを読み上げるんだよね。お姉ちゃん?」

柚明「ええ。さっき読み上げる事を控えたメモを、ここで読み上げさせて貰いましょうか。
 どうして作者が『柚明の章講座』を描く事になったのか、なぜこの時期に描く事にした
のか、今迄描かなかったのかと言う事情を」

桂「うん、うん」

柚明「これは柚明の章の作品外で、『本作品の表記について』に描かれているのだけど」

作者メモ「訴えたい事は作中で語るべきであり、作品以外の場で追加して語らねば分って
貰えないのは未熟の証と考える私(久遠長文)にとって、この様な場を設ける事は実は、
『自身への敗北宣言』に近い物があります」

桂「作品中で伝えきれない事は、作者の力量不足ですと? 作品外でのお話しで補足しな
ければならないのは作品の未熟の証ですと?

 確かに作品中で語られない裏事実でお話しの重要部分が左右されていては、拙いものね。
登場人物や行動について、この様な背景があって事情があって、そうなったんですよって、
読者みなさんは作品を通じて知る訳だし…」

柚明「でも、作品中に全てを描ききるのは、難しいわ。特に柚明の章は、わたしの視点で
書かれるから、わたしの知らない事実は作者が想定しても、文に描けない縛りもあるし。

 掲示板やメールなどで質問に受け答えするのは、作品に全て描ききれない作者の力量不
足だと、分らせる力、描写力の足りなさだと。そう考えるから、今迄作者は作品について
語る事を、好んでこなかった様だけど……」

桂「最近は、語り始めているよね。作品描写で足りないと思えた様なお姉ちゃんの心境や、
次の執筆の見通しや解説なんかを。掲示板への書き込みとか、チャットとかでも」

柚明「作者の考え方は悪くないけど、力量が伴わなければ意味が薄いと気付いた様ね。作
品中に全てしっかり描いて読者皆さんに読み取って頂いていれば、問題はないのだけど」

桂「実際に読み取れない部分はあるものね」

柚明「人の手で、特にアマチュアの文章では、幾ら精緻に書いた積りでも取り零しがある
わ。それを補足せずに放置する事は、読者の皆さんへの誠実に、却って反するのではない
か…。

 作品のメッセージを伝えるという本当の大筋から逸れているのではないか。自身が未熟
で作品が不完全である事に、向き直るべきではないか。そう言う想いはあったみたいで」

桂「ファンブックや他の人のチャットを見て、食指が動いていたって、メモにもあるし
ね」

柚明「掲示板で意見感想質問等を受け付けているけど、柚明の章は一つのお話しの分量が
多いから。書き込む方々が長文になる事を遠慮して、全てを書いてない、控えている可能
性があると、遅まきながら気付いた様で…」

桂「チャットを始めたのもそう言う背景だって、チャットに書いてはあったけど」

柚明「唯、チャットはリアルタイムで質問に受け答えできるけど、分量に限りがあると感
じたのね。解説の主力は、それらを抽出して別に一つ何か設けるべきと、考えたみたい」

桂「ファンブックの様に座談会にする手もあったけど、そうしなかったのは、登場人物が
多いと脱線して収拾が付かなくなって、肝心の解説が進まなくなる怖れがあるからだって。
 だから少数の語り手に、作者のメモを追加して、進行しやすい人数で始めますと」

柚明「座談会は形式が参加者同士の内向きのお話しだから。久遠長文は読者サービスを意
識するなら、形式からわたし達が読者に向き合う解説型が良いと考えたみたい。桂ちゃん
と一緒に司会進行を任せられた事は、とても嬉しいわ。2人で心と力を合わせて、しっか
りお務めをこなしましょうね」

桂「うん。……これで漸く、柚明の章執筆の根っこの動機について、語れるね」


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3.「柚明の章」執筆の動機

柚明「これはある人の感想メールへの、作者の返信の一部です。ちょっと長文だけど…」

作者メモ「……わたし(久遠長文)もアカイイト本編のユメイについて、ユメイルートに
おいても、尚記述が不足している気がしてなりませんでした。

 他のルートが、サクヤや烏月達ヒロインの痛みを知って、分かち合い、絆を深めていく
ルートであるのに対し、ユメイルートだけは、ヒロインはユメイですが、桂自身の失われ
た記憶(痛み)を取り戻すルートであり、ユメイ自身の痛みについては触れられてない、
記述不足な感じがしたのです。

 ユメイが従姉であるにしても、桂にとって姉の様な家族の様な存在であるにしても、あ
の尋常ではない献身は、わたしの中で消化しきれませんでした。
 葛ルートで完全にオハシラ様になる事を笑顔で受け容れて消えてゆくユメイ等は、わた
しが今迄見た事も描いた事もない存在でした。

 何か彼女にそれを促す背景があるはずだと、なければならないと。それが本作執筆の動
機です。それを納得行くまで描ききる為に、膨大な文字数を費やしてしまいました」

桂「確かに、そうだよねぇ。ここ迄優しく綺麗で強い人がいるって言う事が、既に嘘っぽ
い程だものね。特にわたしの間近にいてくれているなんて、もう信じられない程の幸運」

柚明「褒められすぎて、少し恥ずかしいわ。
 でも、確かにアカイイト本編ではわたしの過去についての描写が少なくて、なぜわたし
がそう動くのか、説明不足な感はあったかも。アカイイト本編が桂ちゃんの視点で貫徹さ
れている以上、仕方ない部分はあるのだけど」

桂「サクヤさんやノゾミちゃんは、わたしの血を呑む事で、血に宿った心と心が繋がって、
その夢に入り込めた訳だし。お姉ちゃんにもそれが出来ても、おかしくない筈だったのに。

 烏月さんのルートでは、維斗に斬られて瀕死になったわたしの魂が。ケイ君=白花お兄
ちゃんの身体に避難して。烏月さんとケイ君のやり取りを、知る筈がないのに分る事が出
来た訳だし。柚明お姉ちゃんとの間にだけ、そういう絡みがなかったのは、少し残念…」

柚明「柚明の章では、桂ちゃんの記憶を揺さぶって赤い痛みを招かない様に、わたしが夢
をブロックして、桂ちゃんにわたしの過去を見せない様にしていたと、設定しているわね。

 本編ではストーリーの末尾近くで、桂ちゃんの記憶を取り戻す事が最大の見せ場だから。
その描写が優先されて、わたしの過去は割愛されたのだと、作者は考えているみたいね」

桂「幾つかのアカイイトのサイトを見たけど、お姉ちゃんの印象について、物足りないっ
て評価があるよ。烏月さんをメインにしたサイトが多いのも。烏月さんが男前で格好良く
素敵だという以上に、お姉ちゃんの作品中の印象がやや薄い為だと、作者さんも考えてい
るみたい。烏月さんとわたしの仲を取り上げてくれる処が多い事も、わたしは嬉しいけ
ど」

柚明「実際、作者が柚明の章を書き始める迄、わたしをまともに取り上げたSSも、余り
なかったわね。1番手は烏月さんで、次がノゾミちゃんで。わたしは某所で膨らんだイメ
ージから来る『変態鼻血暴走ユメイさん』で取り上げられる、ギャグ話が多かったみたい
…。

 取り上げにくい、インパクトに欠ける、と見られていたのかも。鬼切りの使命や苦味を
負っている訳でもないし、観月の民の宿業や過去を経ている訳でもないし。普通に現代人
の女の子として生きてきたなら、特徴も薄い。

 烏月さんやサクヤさんの様に、綺麗で強く優しい人と並んでヒロイン役を担うにしては、
影が薄く見えてもやむを得ないでしょうね」

桂「ううん、お姉ちゃんは、サクヤさんや烏月さんやノゾミちゃんや葛ちゃんにも、決し
て引けは取ってないよ。たいせつな人だもの。強さも優しさも美しさも、わたしを想って
くれる気持の温かさも。本当に、ありがとう」

柚明「そう言って貰えると嬉しいわ。わたしは特別強くも賢くも美しくもないけど、でも
そう見える処があったならそれは。たいせつな人の守りに全身全霊を尽くす様を見て貰え
た事と、サクヤさんや叔母さんや笑子おばあさんの教えを巧く活かせてきた為だと想うの。

 それはわたしの地力ではなくて、桂ちゃんと白花ちゃんが、呼び覚まして引き出してく
れた物だから。届かせてくれてありがとうは、わたしから桂ちゃんに抱く想いなのよ…
…」

桂「あ、あわわ、あの、あのその……。正面間近で、両手を両手で胸元に持ち上げられて。
瞳を深く覗き込まれて、唇も頬も近いと。お姉ちゃんの気持が温かいからわたし、周囲が
見えなくなっちゃいそうな。従姉妹だって分っていても、女の子同士だって分っていても、
身も心も脱線していってしまいそう。不謹慎にも脱線したく、望んでしまいそうな気が」

柚明「わたしもよ、桂ちゃん。桂ちゃんの可愛らしさに、つい話しが逸れてしまうわね」

桂「……お姉ちゃんも、ですか。そのぅっ…。
 カメラを前にして、読者のみなさんを前にしている筈なのに、脱線しまくりです……」

柚明「わたし達2人だけだと、脱線してお話しが進まないから、ゲストさんに来て挟まっ
て頂いて、脱線しすぎない様に牽制して貰うというのが、作者の思惑かも知れないわね」


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4.作者の想定と想定外

桂「ふぅっ。深呼吸して、心機一転っと…」
柚明「はい。気持を入れ直して、再開です」

桂「作者さんは、柚明の章がここ迄長くなるとは想定してなかったみたいだね。1話当た
りの分量も、それからお話しの本数の方も」

柚明「当初は柚明前章と柚明本章だけで終りの予定だったみたい。それだけでも相当な分
量なので、書ききれるかどうかが不安だったというのが正直な処かしら。書き始めの頃は、
柚明前章は400字詰め原稿用紙で150枚、柚明本章が200枚を想定していたみた
い」

桂「柚明前章で行けば、4分の3だね。柚明本章で行けば、半分程度で終らせる予定だっ
たんだ。……見通し、甘かったね」

柚明「予想を超えて伸びて行く時に、どこで切ろうか、伸ばすべきか。どこ迄伸ばすべき
か、きちんと終わらせられるのか。非常に不安を感じたって、メモにはあるわね。特に柚
明本章の第4章は、もう最後は伸びる侭に任せる他に、術もないという感じになったと」

桂「柚明前章及び柚明本章が4話構成なのは、アカイイト本編の4日構成に倣ったそうで
す。深い意味はありません。柚明の章では、わたしの経観塚滞在は、ノゾミちゃんルート
や葛ちゃんルート等を混ぜ合わせた為に、4日ではなく6日に増やされているんだけどね
…」

柚明「柚明間章は、柚明前章を書き終えてから、柚明本章を書こうとして躓いた為に、急
遽入れる事を決めたと、メモにはあるわね」

桂「最初は、書く予定ではなかったんだ?」

柚明「わたしがオハシラ様になってからの拾年も、必要最低限は描かないと。柚明視点で
描く柚明本章、アカイイト本編は描けないと、この時点になって気付いたみたい。迂闊と
言えば迂闊だけど。最大の軌道修正かしら」

桂「後日譚も、計画的に作った訳ではなくて、ノゾミちゃんのネタを発作的に作った流れ
で、他の人達の分まで作っていこうと決めたって。お凜さんのエピソード第2話『今は唯
この愛しさにのみ身を委ね』で使われた、わたしの血の匂いを隠す結界のネタは、当初陽
子ちゃんのエピソードにしようかと考えていたって。

 結構行き当たりばったりだね、作者さん」

柚明「他のサイトで、桂ちゃんのアパートにノゾミちゃんとわたしと3人で住む後日譚で、
『わたしの前で桂ちゃんの血を吸うノゾミちゃん』という短いSSを見て、心惹かれたみ
たい。桂ちゃんと合意して血を頂く様を見せつけ、わたしの嫉妬や心配を喜ぶノゾミちゃ
んの心の動きを見て、是非書いてみたいと」

桂「番外編は、柚明前章で拾いきれなかったお話しを拾いたくて書き始めたって。当時は
柚明本章を早く書きたかったのと、番外編の中身を全て書いていては、本章を書き始める
のが何年先になるか見当が付かなかった為だってメモが来ているけど。確かにそうだね」

柚明「詩織さんのお話しや、真沙美さんや和泉さん、父方の従姉妹の仁美さんや可南子ち
ゃんとのお話し等、前章執筆中から幾つか構想を温めていたみたい。実はそれも12話程
で終る筈だった物が、伸びている様だけど」

桂「番外編の挿話は『長すぎて読みにくい』という評に、応えきれない事に悔しくて作っ
たって。起承転結やオリジナルキャラの背景事情まで書き込んで、修羅場やドキドキのエ
ピソードまで、これだけの中身を詰め込めば、長くせざるを得ないと分るけど。作者さん
も削る事は難しいけど。短いお話も書けますよって示したくて、番外編でも拾いきれなか
った小エピソードを、文章化するきっかけに」

柚明「作者の構想力では、当初は柚明前章と柚明本章を展望するだけで、手一杯だったの。
それ以上は行き着いてから考えましょうと」

桂「それにしては、作者さんは別に烏月さんルートで、経観塚のお屋敷でわたしが維斗を
構えて烏月さんを庇う事をせず、その場から逃げ出しちゃう『途切れた糸・夏の終わり』
の後や、烏月さんが鬼切りを憶えられなかった『紅い維斗』の後、更には烏月さんルート
の真エンド『爽やかな立ち風』の後で、オハシラ様の侭であり続ける柚明お姉ちゃんのお
話しも、別に描けたらと考えているみたい…。

 どれもお姉ちゃんにはバッドエンドだよ」

柚明「最後のはそうでもないわ。桂ちゃんは烏月さんと結ばれるもの。無理に紅い痛みを
突き抜けなくても幸せは掴み取れる。桂ちゃんの幸せがわたしの幸せ。わたしの事は心配
不要だから、桂ちゃんが桂ちゃんの人生を確かに生き抜いてくれれば、わたしは嬉しい」

桂「実際そう生きていくわたしもいる訳だけど、でも全景を見渡せる様になると、やっぱ
りお姉ちゃんに申し訳ないよ。結局烏月さんルートのわたしは、過去を取り戻せてないし。

 烏月さんとも葛ちゃんともノゾミちゃんとも絆を繋げて、尚柚明お姉ちゃんが戻ってき
てくれる柚明の章が、わたしは一番好きっ」

柚明「CDドラマに繋る、ゲーム上には存在してない『ハーレムルート』を想定して描い
たと、作者メモにあるわね。サクヤさんのエピソードは柚明本章で大きく割愛させて頂く
代り、柚明前章の内に取り込みましたって」

桂「基本的に柚明の章が今の処一本道なのは、作者の力量が分岐ルート迄手が伸びない為
で、書いてみたい分岐ルートは後日譚にも前日譚にも幾つかあります、ともメモにあるけ
ど」

柚明「アカイイトは、バッドエンドにも美しい物が多いと評価が高いから。作者もついバ
ッドエンドに心惹かれてしまうみたいね…」

桂「柚明前章はバッドエンドに近い結末だし、柚明本章も幾つかのバッドエンドを絡めて
いたものね。わたしもお姉ちゃんも、実際危うかったし。振り返って見れば、柚明の章で
は柚明前章から後日譚に至る迄、お姉ちゃんは主人公なのに、相当酷い目に遭ってな
い?」

柚明「主人公なのに、と言うより、主人公だからこそ、と言うべきなのかも知れないけど。
 桂ちゃんを心配させてしまって、ごめんなさいね。出来るだけ、無茶は控える様に心が
けるわ。わたしは、たいせつな人を守れたり救えたりする展開だから、多少自身にきつい
事はあっても、基本的に受け容れているけど。

 危険に踏み込まなければ助けられない人がいたり、損失を覚悟しなければ解決できない
問題があったり。わたしも諍いや戦いを好む訳ではないのだけど。わたしで役に立てるな
ら、わたしで届かせる事が出来るなら、わたしの力で涙を笑顔に変える事が叶うならって。
たいせつな人の幸せは、わたしの幸せだから。たいせつな人の守りは、わたしの願いだか
ら。

 でも、それで桂ちゃんの優しい心を曇らせ、笑顔を萎れさせ、俯かせたなら。それは全
てわたしの所為、わたしの我が侭と力量不足の所為だから。……本当にごめんなさい。そ
してわたしを真剣に心配してくれて、有り難う。

 わたしの所為で、わたしの為に、竦ませてしまった優しい心を、わたしの想いで温めさ
せて。その不安を拭わせて。お礼の気持を」

桂「か、カメラの前でみなさん見ているけど、良いのでしょうか……。い、一応誤解の無
い様に、弁明しておきます。こ、この抱き付きは、頬合わせは、わたし達の日常良くある
スキンシップで、とっても嬉しい年中行事です。

 柚明お姉ちゃんは大事なお話しをする時は、良くこうして抱き留めて頬合わせたり。瞳
で瞳を覗き込んだり。両手を胸の前に持ち上げて握り合ったり。後ろから首筋や胸元に両
腕を回して耳元に囁きかけてくれたり。色々と親愛を肌身に伝えてくれるけど。淫らな図
ではないのです。わたしもお姉ちゃんも、邪な意図は決して……。分って、もらえま
す?」

柚明「桂ちゃんの気持はきっと届いているわ。柚明の章の読者さんならきっと分ってくれ
る。わたしの真の想いも、桂ちゃんの真の想いも。

 作者の本当の想定外は、わたしと桂ちゃんをセットでメインに据えると、お互いが脱線
し易くて、中々本題が進まなくなると言う怖れを、過小評価した辺りではないかしら?」

桂「……わたしには、嬉しい想定外かも…」


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5,アカイイト本編との色合いの相違

桂「そ、そのっ。……もう少し柚明の章について、全体的なお話しを、続けたいと思いま
すっ。柚明お姉ちゃん、どうぞ」

柚明「はい。前提条件や基本要素・全体的な事柄は一応述べましたけど、ここで取りこぼ
した事は、それぞれのお話しについて語る段階で、随時継ぎ足す形にしたいと思います」

桂「お姉ちゃんが使う贄の血の力の追加設定とかについても、ここで話すより、お姉ちゃ
んの修練シーンを解説しながら行う方が、分かりやすくなりそうだものね」

柚明「アカイイト本編と一致する処や、そこから派生させた設定や、異なる事は承知で踏
み越えた部分についても、随時語る積りです。掲示板やチャット・メールなどで頂いた問
や答も、叶う限り取り込みたく考えています」

桂「あと、アカイイト本編に較べ、作品の色合い・力点ががややずれている処もあるよね。
作者さんが、知識や話しの運びや文の美しさなどの全てで、アカイイト本編の原作者・麓
川さんの足元にも及ばない事は、承知の上で。柚明の章が、アカイイト本編とやや違うか
な、と思える処について、全体を通して幾つか」

柚明「百合の描き方、伝奇の濃淡、戦闘描写、を上げているわね、作者メモでは。

 百合の描き方では、作者が元々百合に縁が薄かったのに、アカイイトを愛し、柚明の章
で初めて百合を描いた為に、感触がやや違うと自覚しているみたい。百合の人達の『お約
束』に縛られていない。だからこそ、百合好きの人が『まさかそれを描くか』と驚く様な
お話しの導きをする事が、時折あるみたい」

桂「百合でも百合でなくても、素晴らしいお話しは素晴らしいお話しであり、駄作は駄作。
男女恋愛を描くドラマや小説と、基準は同じ。面白いか、心打たれるかが焦点で、百合か
どうかやその濃淡は、プラス評価にもマイナス評価にもなりません。きちんと人を描けて
いるかどうか、読んで得心行くかどうか、です。だから大人の性愛や暴力描写についても、
逃げる事なく目を逸らさずに踏み込みましたと。

 久遠長文はアカイイトの為に百合も描くのであって、百合の為にアカイイトを使う積り
はありません、だって。この感覚は、柚明の章の全部を貫いているみたいな気がするよ」

柚明「作者はわたしを『女のみ好き』の人物造形にはしませんでした。『女の子も男の子
も、好きな人は好き』が柚明の章の柚明です。実際には女の子との絡みが多くなるのだけ
ど。男の子や男性との関りを、不自然に排除する事はしない。作品を、見て頂いた通りで
す」

桂「男の子とも、お付き合いしていたものね。
 果たして応援して良いのかどうか、わたし、読者さんと同じ立場で、すごくドキドキ心
悩まされたよ。お姉ちゃんの幸せそうな微笑みはとても好ましいんだけど、その……ね
…」

柚明「心配させてしまって、ごめんなさいね。わたしは男の子を嫌っている訳ではないか
ら。女の子も男の子も、わたしの様な者を好いて歩み寄ってきてくれる事は嬉しい。その
好意には、叶う限りの好意で応えたい。わたしの一番たいせつな人は桂ちゃんと白花ちゃ
んで、二番目にたいせつな人はサクヤさんだけど」

桂「だから『一番にも二番にも出来ないけど、たいせつな人』なんだ……。あの囁きは決
して嘘を語ってないし、お姉ちゃんの精一杯の誠意が宿っているとも分るけど、甘くて暖
かくて、誤解させる程に想いがこもっているよ。もう、囁かれた女の子も男の子も、みん
な柚明お姉ちゃんに恋しちゃって無理ない位に」

柚明「限界がある事は承知の上で、確かに伝えた上で、寄せてくれた心にはわたしの全身
全霊を返したい。みんなたいせつな人だから。良い想いに良い想いが返って欲しいと、返
したいと願うのは、当たり前の事でしょう?」

桂「恋愛に親愛を返すのは、間違いじゃないけど、間違いを生む誤解の元の様な気も……。
もっとも、わたしも人の事は言えないかも」

柚明「男の子という点では、柚明本章に入ってからは白花ちゃんも爽やかな男の子になっ
たわね。多くのアカイイトSSでは、わたしのたいせつな人は桂ちゃんのみで、白花ちゃ
んはかなり落ちる扱いな事が多い様だけど」

桂「柚明の章では、わたし達2人とも同着で『一番たいせつな人』になっているね。これ
も『男イラネ』とかいう一部の百合好きな人には、微妙なのかも。柚明本章ではアカイイ
ト本編よりも、登場頻度が多くて重要だし」

柚明「2人の扱いに差を付ける必然も理由も感じなかった、と作者メモにあるわ。双方幼
子の頃から接し続けていた家族なら、当然ね。アカイイト本編での応対も、自身の身を守
る力を持つ白花ちゃんと、全く無力な桂ちゃんへの応対の違いと、作者は考えているみた
い。

 アカイイトが、或いは柚明の章が百合の色を帯びるのは、そのお話しの展開による為で。
女しか愛しない登場人物達で出来ている為ではないと、作者は考えている。女子校の様な
鎖された世界で進むお話しでもないので、こちらの方が自然で説得力はあると思うけど」

桂「お話しは、お姉ちゃんが小学生の頃から始っているから。百合になるならない以前だ
よね。百合かどうかは、アカイイト本編でも柚明の章でも、重要だけど一番たいせつでは
ないと考えていますと、作者さんのメモです。

 柚明前章で描く田舎の学校なら、男女共学が当たり前だものね。都市部だって高校はと
もかく小学校や中学校は共学が一般的だし」

柚明「その上で、女の子であるわたしは女の子との友達付き合いが多く、身近な女の子達
に降り掛る危難や禍を捨て置けず、関っていく内に深く強く、心を繋げて行くのだけど」

桂「愛情表現がストレートというか、熱っぽくて誤解を招き易そうって感想もあったけど、
果たして誤解なのかどうか。……この辺りは、わたしは敢て訊かない事にしておきます
っ」

柚明「伝奇の濃淡も、作者は挙げているわね。特に前日譚で顕著だけど、幼いわたしの周
囲に鬼は居ないし、葛ちゃんや烏月さんの様な鬼に近しく詳しい人もいないので。伝奇を
語る場面が余り多くないの。サクヤさんもわたしがある程度大きくなる迄は、真相を伏せ
ているし。叔母さん、桂ちゃんのお母さんも縁を切られた千羽の事は余り話してなかった
し。

 拾年前の現代日本を生きる女子小学生や女子中学生の視界に、伝奇要素は余りないのが
自然でしょうと。ここはアカイイト本編を伝奇の故に好いた人には、物足りなかったかも。

 久遠長文は自身の力量から、伝奇要素を巧く話しにはめ込む構成能力に、不安を持って
いたみたい。知識を詰め込む事は可能だけど、それでお話しをより良く紡ぎ出せるかどう
か。伝奇知識の発表会ではない。巧くお話しに取り込めないと、単なる蘊蓄の羅列に終り
かねない。ここはアカイイトの原作者、麓川さんの足元にも及ばないと、作者メモにある
わ」

桂「知っている事と、上手に話しに取り込んで使いこなす事は違いますと、言う事ですか。
わたしは、伝奇要素に余り重点を置いて生きて来た訳ではないから、別に構わないけど」

柚明「久遠長文は、伝奇要素もアカイイトの幹ではあるけど、根ではないと見ている様ね。
 そしてもう一つ、アカイイト本編と柚明の章の大きな相違は、戦闘描写ね。桂ちゃんの
目の前で烏月さんが鬼と闘うアカイイトでは、剣の戦いが印象深いけど。柚明の章では
…」

桂「柚明の章では剣の戦いは少なく。むしろお姉ちゃんは、素手で闘う展開が多いんだね。
柚明お姉ちゃんがお母さんから、護身の技を鍛えられ闘う術を憶えたと言う設定は、やや
驚きだけど、あり得なくはないと思う。鬼に酷い目に遭わされたスタートが、ある訳だし。

 武器を持たずに肉体を鍛えるって言うのは、細身のお姉ちゃんだけに少し意外だったけ
ど。見慣れたという以上に、時をおいて納得できました。現代日本の日常で、刀や木刀を
持ち歩く人はほとんどいないもの。烏月さんの刀剣所持に違和感抱いたのを長く忘れてい
たよ。そう言う戦いが続く方に、設定が必要だよね。

 考えてみれば、ノゾミちゃんもサクヤさんも、尾花ちゃんの血を呑んで戦う様になった
葛ちゃんも、刀も槍も使ってなかったしね」

柚明「柚明の章の設定では、オハシラ様になって肉の体を無くしたわたしは、贄の血の青
い力を使う他に、鬼と有効に戦う術がないの。

 桂ちゃんと暮らす後日譚でも、相手を退けねば避けられない程の危機には、陥らない様
に努めているわ。闘って退けねばならない状況に陥る事自体が、わたしには既に失敗です。
 そして仮に誰かを守り庇う為に、闘う事態に陥ったとしても。必要最小限の挙動で充分
な成果を得られる様に。相手を痛めつけたり、誰かの前で活躍して感謝や賛嘆を欲したり、
技や腕を披露して強さを認められたい訳ではないから。わたしが欲しいのは結果。桂ちゃ
んの日々が愉しく平穏に続きますようにって。

 柚明前章でわたしが闘わざるを得ない場面がやや多いのは、わたしの賢さや力量が未だ
満ちてない、未熟な子供だからと思うの…」

桂「アカイイト本編で、鬼切部の剣の戦いに心を惹かれた人達には、少し物足りないかも
知れないけど、わたしは全然気にしてないよ。
 剣の戦いなら、お姉ちゃんやノゾミちゃんと一緒に、アパートのテレビで連日、時代劇
を愉しんでいるから。時折烏月さん達の闘う姿とかも、間近で守られながら見ているし」


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6.主人公視点は、ほぼ貫徹しました

柚明「他に、作者が努力した点で挙げているのは、主人公視点の徹底ね。麓川さんはアカ
イイト本編を、桂ちゃんの一人称・桂ちゃん視点で貫徹したわ。それ迄他のどのゲームや
ドラマでも、読者や視聴者はみんな全知全能な神の視点にいて、主人公が知らない場面や
経緯を見知っているのが当たり前だったのに。この作品に驚愕したのは、本当に桂ちゃん
の視点で全てが描かれていると言う事ですと」

桂「本当お風呂から、森の中で小用を足しに行こうとする処迄、ずっとわたし視点だもの。
お陰で、わたしの見知った事が読者さん達の見知った事と、完全に一致して。多くのマン
ガや小説では、敵方の作戦会議とか確執とか、味方側でも烏月さんやサクヤさんや、お姉
ちゃんの視点が交互に来るのが通常なのに…」

柚明「アカイイトに驚愕した作者は、そこは貫徹したいと望んでいたみたい。逆に言うと、
主人公の視点しかない状態で、お話しが完全に紡げるのか、不安な侭。麓川さんの前例を
励みに、わたし視点の貫徹を目指したって」

桂「柚明前章、柚明間章、柚明前章・番外編、柚明前章・番外編・挿話は、全部お姉ちゃ
んの視点で、一貫しているものね。柚明本章は、お姉ちゃんと『お姉ちゃんの関知や感応
が届く範囲のわたし』、ここでもお姉ちゃんの知れる事のみでお話しを紡いで、紡ぎ通し
て」

柚明「後日譚では、逆に他のヒロイン達の視点にも幅を広げてみようとしたと、作者メモ
にはあるわ。わたしは感応や関知の力を設定して、その場にいない情報もある程度お話し
に載せて語れるけど。それをできない烏月さんやサクヤさん、陽子ちゃんやお凜ちゃんで、
同じ事が可能なのかどうか挑戦してみたと」

桂「わたしの場合も、純粋に普通の体験ではないものね。血を呑まれる事でノゾミちゃん
やサクヤさんの夢に入り込めて、その痛み悲しみを追体験したり。烏月さんルートで烏月
さんの維斗に切られた時には、ケイ君=白花お兄ちゃんの体に魂が避難して、本当はわた
しが知る筈のないやり取りも見聞きしたし」

柚明「場面を変えたいという以上に、主人公が知らない筈の情報を知らせたい。主人公は
知らないけど、敵方や他の登場人物にもこういう事情があったんですよと、読者さんには
知らせたい。作者視点を一緒に持って欲しい。

 良くも悪くもそんな作者心理を、ここ迄切り捨てて貫徹した作品は初めてですと。読者
さんは無責任に全知全能な神の視点ではなく。主人公と同じ与えられた情報で、一緒に困
ったり悩んだりして、事態に向き合う。ここはどうしても、麓川さんを真似したかった
と」

桂「お話しの長さも、原作を意識しているよね。一場面や一カ所だけを抜き出して描くの
ではなくて、流れを最後迄描ききりたいって。正直な処、そう言う一枚絵の様なSSが作
者さんは苦手で。挿話の様に短くしても、結局起承転結を付けちゃうと、メモが苦笑い
を」

柚明「作者は柚明本章を、最後迄描ききれない事を一番心配していた様ね。ここ迄長いお
話しを、アカイイト本編とつかず離れず(全く同じくはせず、でも離れすぎない様)の間
合を保って描き続け、最後迄構成力や集中力が持つのかと。今迄完結した長編作品が殆ど
ない、力量はあっても大風呂敷な人だから」

桂「アカイイトのまとめサイトにある幾つかの長編が、様々な事情や理由から未完の侭で
終っているのを、とても残念がっていたよね。作者さんは書く人だけに、他の人が書いた
SSを読む事も、とても楽しみにしているから。

 せめて自分の書き始めたSSは、途中放棄という目には遭わせたくないと。だから柚明
前章と本章、核となる部分のみは、何が何でも短日中に、と言っても1年以上掛ったけど、
書き上げる事に力を注いで。結末を書いてから過去を書き足すと、矛盾が生じる怖れがあ
ると、心配しておきながら尚、番外編を後回しにした心象風景も、少し分った様な気が」

作者メモ「ユメイの一人称を軸にしながら、彼女の関知の力という設定を元に、桂の一人
称まで交え、なおかつ混乱させないというのは恐れ入りました」

柚明「これは作者に寄せて頂けた感想の一つだけど。ここ迄褒めて貰えるとは思ってなか
ったから。とても嬉しかったわ。苦心しても、桂ちゃんの視点を交えたのは成功だったわ
ね。

 作者は柚明本章も、柚明視点のみで貫こうかと、少し悩んだみたいだけど、最終的にわ
たしの関知や感応が及ぶ範囲での、桂ちゃんの視点も交えた文体にしたの。それはわたし
が知れる範囲の事だからと。一種の折衷案ね。

 アカイイトは桂ちゃんが主人公だから。柚明の章であっても、アカイイトを名に冠する
以上。桂ちゃんを中心に流れる物語を読者さんに感じて貰えなければ、成功とは言えない
でしょうと。ゲーム中で見て読んだ、あのシーンがあの状況が、再現される。柚明の章の
独自設定と、柚明の視点で裏で進むお話しの間に挟まって。それで柚明の章は、アカイイ
トに支えられて強力な既視感・現実感を得る。

 わたしは結局、桂ちゃんと白花ちゃんがあってこその、羽藤柚明だから。作者も元々の
雰囲気や印象を、極力残したかったって…」

桂「作者さんが全体のタイトルを『アカイイト・柚明の章』にした気持が、分った気がす
るよ。本当に、作者さんはわたしや柚明お姉ちゃんや、アカイイトの他の登場人物や世界
観や文体や構成が、全部好きなんだね。思わず長編SSを、作りたくなってしまう程に」

柚明「ええ、そうね。……時にはその愛に目が眩んで、他の物への配慮を欠く時も、ある
様だけど……。自覚は出来た様だから、それは今後の推移を見守る事にしましょうか…」


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7.本当はこの辺りで締めになりますが

桂「そう言う訳で、そろそろ締めです」

柚明「分量的には、挿話位になったかしら。少しお話しが逸れてしまった所為もあるけど。
ゲストに訪れて頂く次回以降は、文章の量もこの数倍に、増えてしまうかも知れないわね。

 唯『柚明の章講座』については、掲示板やメール・チャット等で受けた問や答・感想を、
随時その後ろに継ぎ足す事も考えているので。これも暫定的な締めですと、作者メモが
…」

桂「柚明前章の第1章について質問が来たら、その問答は柚明前章第1章を取り上げた
『柚明の章講座』第2回に継ぎ足すのが、分りやすいものね。読者のみなさんとのやり取
りで成長していくって作りも、珍しい構成かも」

柚明「柚明の章全体を貫く問や答・感想については、この後に追記する考えです。物語と
違って明確な起承転結で終わらず、時にダラダラと、盛り上がりや締めがないこの形式が、
特徴なのか短所なのか。気長にこの試みを見守って頂けると幸いです、と作者メモです」

桂「わたしは、お姉ちゃんと一緒出来るなら、どんな設定でも喜んで受け容れちゃうけ
ど」

柚明「有り難う、桂ちゃんは優しいのね。わたしも桂ちゃんと幸せを一緒出来る事は嬉し
いわ。その笑顔を間近に見つめられる事も」

桂「わ、わわっ。お姉ちゃん、頬が瞳が唇が、やっぱりわたしに近い。わたしがつい近し
く顔を寄せちゃう所為もあるけど、お姉ちゃんもわたしの無意識の望みに、無意識に応え
ちゃっているでしょう? この肩や脇に回してくれる柔らかな腕も感触も、やや近しすぎ
…。

 でも、綺麗で艶やかで慈愛が肌身に感じ取れるから。好ましくて心地良いので。この柔
らかさはもう、受け止めさせて頂きますっ」

柚明「頬を染めて恥じらいつつ、身を寄せてくれる桂ちゃんも可愛いわ。今日は馴れない
カメラ目線で少し疲れたのでしょう。もうお話しは概ね終りだから、気を楽にして良いわ。

 そう言う訳で、次回予告です。桂と柚明の『柚明の章講座』第2回は、柚明前章の第1
章『深く想う故の過ち』を取り上げます」

桂「わたしが生れる前の、経観塚の外で住んでいた頃の、本当に小さな柚明お姉ちゃんが
見られるんだね。お父さんやお母さんとの日々も、描かれているんだ。今から楽しみだよ。
 現状、作者さんの執筆の順序と執筆の速さを考えると、お盆近くが現実的な処だけど」

柚明「それ迄に、第1回に質問や意見感想を頂いて、追記になるかも知れないわね。どち
らにせよそう遠くない内に、みなさんにお話しできる機会は、再度訪れると思います。

 わたしと桂ちゃんの楽屋オチの様な話しで、読者のみなさんに楽しめて頂けたのかどう
か、不安に想うのは作者もわたしも同様ですけど。
 懲りずに見に来て頂けると、幸いです」

桂+柚明「今日はどうもありがとうございました。次に逢える日を心待ちにしています」


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8.ほんの少しおまけ

桂「ふぅっ、終ったぁ。緊張したよぉ」

柚明「桂ちゃん、お疲れさま。のびのびした桂ちゃんの良さは、カメラの向うの読者さん
や葛ちゃん達にも、伝わっていたと思うわ」

桂「お姉ちゃんも、おつかれさま。よっ、ちょっと、足が痺れちゃったみたい。ひあっ…。
 柚明お姉ちゃんはずっと正座で、良く足が痺れないね。それも贄の血の力の技なの?」

柚明「ふふっ、これは笑子おばあさんと叔母さん、桂ちゃんのお母さんに習ったの。実際
は習うより慣れた感じだったけど。わたしも色々教えて貰えたから、今度はそれを桂ちゃ
んに少しずつ伝えていく事にしましょうか」

桂「足が痺れなくなる術や技なら習ってみたいけど、結局馴れる迄痺れ続けるって言うな
らちょっと微妙かも。でも、お姉ちゃんと一緒に出来るなら、何でもわたし、頑張るよ」

柚明「桂ちゃんに新しい何かを教える事は、わたしも楽しみよ。桂ちゃんに教えられる何
かを持つと言う事も、桂ちゃんが望んで学ぼうとしてくれる事も、同様に。桂ちゃんはと
ても強く賢く、可愛い年頃の女の子だから」

桂「綺麗な瞳で間近に正視されて、両手握られ持ち上げられて、親愛を込めてそう言って
貰えると、やっぱり嬉しいけど恥ずかしいよ。美人は3日一緒にいれば飽きるって人は言
うけど、異なる事もあると最近知りました。今も胸のドキドキが止まらないし。血の巡り
が激しくて、心臓はばくばく言ってうるさい位。

『柚明の章講座』の第1回も無事に終ったし、2人きりに戻れたこの場でわたし、この侭
お姉ちゃんに向けて一直線に、言葉も行いも逸れていってしまいそう。むしろ逸れていっ
てしまいたいかも。お姉ちゃん、ダメ……?」

柚明「そうね……。桂ちゃんはわたしの一番たいせつな人。毎日幸せに微笑んで、元気に
今や明日を見つめて生きて欲しい、愛しい人。その望みには、桂ちゃんに害や悪影響がな
い範囲で、叶う限り応えたい。応えさせて欲しいのはむしろわたしの願いだけど。でも
…」

桂「けど、とか、でも、って、その否定の接続詞は、何か問題があるの? お姉ちゃん」

柚明「桂ちゃんの気持は嬉しいのだけど…」

桂「もう見ている人もいないのに、お姉ちゃんは一体誰を何を守りたくて、及び腰なの?
 お姉ちゃんは一体何を気に掛けているの? わたしを肌身に抱き留めて、こうして頬を
合わせつつ、お姉ちゃんはどこを何を見ているの? 少しの間、わたしだけを向いて!」

柚明「……桂ちゃん、ごめんなさい。優しい心を乱してしまって。……桂ちゃんが心配す
る様な事は、何もないのよ。あのね……」

桂「お願い、お姉ちゃんの気懸りを教えて。
 問題や障害を感じているならわたしにも。
 困難も、一緒に抱けば乗り越えられるよ!

 わたしも経観塚の夏を経て強くなったの。
 共に事に向き合って、助け支え合いたい。

 わたしもお姉ちゃんの諸々に関りたいの。
 わたしがあなたの憂いを取り除きたいっ!
 いつ迄も子供扱いしてないでお話しして」

柚明「……分ったわ、桂ちゃん。少し落ち着いて、わたしの話しを聞いて。少しだけ強く
肌身に抱き留めるから、荒ぶる心を鎮めて…。

 今わたしが気に掛けているのは、さっき迄正面からわたし達を撮ってくれていた、壁の
隠しカメラよ。普段は電源を切ってある物が、未だ電源入った侭だから、切って置かない
と。葛ちゃんや烏月さんや、若杉のスタッフさん達も、中々後片付けを出来ないでしょ
う?」

桂「あ……」

柚明「わたしは桂ちゃんに裾や袖を捉まえられたり抱きつかれたりすると、自力で振り解
けないから。ごめんなさいね。早く言おうと思っていたのだけど、巧く言い出せなくて」

桂「……あ、あわ、あわ……あわあわ…!」

柚明「桂ちゃんはわたしの一番たいせつな人。その願いには叶う限り応えたい。桂ちゃん
に害や悪影響がない限り、この身と心の全てで。……でもその前に、電源を切りましょう
ね」


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